過去に何度も?ケネディ大使への脅迫 イルカ漁、靖国、米軍基地…背景を米メディア推察

 2月、東京の米国大使館に、キャロライン・ケネディ駐日米国大使ならびにアルフレッド・マグルビー駐沖縄米国総領事を殺害すると脅迫する電話が複数回かけられていた、と読売新聞など日本の報道機関が17日報じた。それを受けて、海外メディアも一斉にこの事件を報じた。

 19日に、那覇市の男(52)が威力業務妨害容疑で警視庁に逮捕され、容疑者は調べに対し容疑を認めているという。

◆まだまだ不明点ばかりの事件
 読売新聞は、警視庁幹部への取材によって事件が判明したとしている。電話は、英語を話す男の声だったという。朝日新聞によると、警視庁は、脅迫や威力業務妨害の疑いがあるとみて捜査しているという。

 これまでのところ、事件について、これ以上明らかになっていることはほとんどない。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は、この脅迫がこれまで明らかにされなかった理由について、報道からははっきりしなかった、と語っている。

 海外メディアは、18日付でこの事件を報じたところが多かった。18日はミシェル・オバマ米大統領夫人が初来日した日でもあったため、多くの海外メディアが併せて伝えていた。AP通信によると、ケネディ大使は来日したミシェル夫人と18日に会うことになっていたという。

◆韓国の米大使襲撃事件の影響で、安全対策への懸念が高まっている
 今月5日には、韓国ソウルで、リッパート駐韓米国大使が刃物を持った男に襲われるという事件があったばかりだ。多くの海外メディアが併せて伝えた。

 ロイターは、韓国でのこの事件が、海外駐在の米外交官への脅迫、ならびに米大使を守るために取られる予防措置についての議論を引き起こした、と伝え、安全対策の問題を中心的に報じた。NYT紙も、この事件があって、アジアにいる米外交官の安全対策についての懸念が膨れ上がった、とした。

 米国務省のサキ報道官は18日、「われわれは、米外交官に対するいかなる脅迫も深刻に受け止める。わが国の職員を保護するために、あらゆる可能な措置を取っている。必要な措置が取られていることを確実にするべく、日本政府と協力して取り組んでいる。特定の脅迫に関する詳細や、それに対処するために取る措置については、コメントしない」と声明で発表した(NYT紙)。

 時事通信は、米CNNが今回の脅迫事件を、ミシェル夫人の来日や、リッパート大使の襲撃事件と絡めて報じていることについて、「警備状況への懸念をにじませた」ものだと分析している。

◆ケネディ一族ゆえの心配
 多くの海外メディアが、ケネディ大使は、1963年に暗殺された故ケネディ元大統領の娘であると、改めて伝えている。CNNは、叔父にあたるロバート・ケネディ元上院議員も暗殺されたことを伝えている。各メディアは、これまでケネディ一族が、危難と無関係ではなかったことを伝えようとしているようだ。

 CBSのセス・ドウン通信員は、ケネディ大使は、日本では著名な人物で、通例、公式の外出の際には、人々と自由に触れ合っている、と語っている。NYT紙は、日本では彼女の父親は偶像視されており、多くの人が彼女を高く評価している、と語っている。

 折しも18日には、早稲田大学で、「引き継がれるケネディ大統領のトーチ~今日に至るその遺産~」と題して、故ケネディ元大統領の業績を顕彰するシンポジウムが開かれた。シンポジウムには、ケネディ大使、ビル・クリントン元大統領、安倍首相が出席し、講演を行った。

◆脅迫の意図はまだ不明だが
 しかしNYT紙は、ケネディ大使のこれまでの言動が、一部の敏感な人たちを怒らせた、とも語っている。1年前に、和歌山県太地町で行われている伝統的なイルカ漁について、非人道的であるとして懸念を表明したことにより、日本で軽い騒動を巻き起こした。また米大使館は、安倍首相が「戦争神社」を参拝したことも批判した。その神社は、他のアジア諸国が、日本の帝国主義時代の象徴と見なしているものだ。そのように同紙は伝える。これらの問題が、今回の脅迫の背景になっている可能性があると、ほのめかそうとしているのかもしれない。

 そういった見方をさらに押し進めたものが、米ニュースサイト「デイリー・ビースト」に見られる。ある警察情報筋によると、大使に対して脅迫が行われたのは今回が初めてではない、と記事は語る。大使がイルカ漁に対する非難をTwitterで表明したときには、脅迫が殺到した、としている。また、匿名の警察関係者からの話として、暴力団を後ろ盾に持つ右翼団体のいくつかが捜査対象に含まれている、としている。そして、右翼団体と今回の事件との関連性について、その可能性を論じている。

◆沖縄基地問題に触れる海外メディア
 マグルビー駐沖縄米国総領事が脅迫を受けたことに関連して、複数の海外メディアが、日本に駐留する米軍人およそ5万人のうち、約半数が沖縄に駐留していると伝えている。米軍基地問題と、今回の脅迫にはつながりがあるという可能性を、におわそうとしているのかもしれない。しかしCBSは、ドウン通信員の見解として、沖縄では、多くの米軍人が駐留していることをめぐって、いつも抗議が持ち上がっているが、抗議は平和的なものだ、と語り、そういった見方を打ち消している。

Text by NewSphere 編集部