朝日は被害者? 慰安婦、吉田調書問題受け、「右派の攻撃」を米紙強調

 朝日新聞社は11日、東京電力福島第1原発の事故当時の状況を記した「吉田調書」に関する5月掲載のスクープ記事を誤報と認め、取り消した。同社の吉田伊量社長は同日夜、記者会見を開いて「読者の信頼を傷つけた」などと謝罪した。

 海外各紙もこのニュースを報じている。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)やウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、この原発関連記事の問題だけでなく、慰安婦問題をめぐる誤報やジャーナリストの池上彰さんの連載コラムの掲載拒否問題など、最近の一連の朝日の不祥事についても併せて取り上げている。

【木村社長「私自身も責任から逃れられない」】
 今回、朝日新聞が誤報と認めたのは、2011年3月の福島第1原発事故当時、現場職員の9割に当たる約650人が吉田昌郎所長(当時)の待機命令に背いて、約12キロ南の福島第2原発の敷地内に避難したという報道内容だ。政府は、11日夜に急遽開かれた木村社長の会見に先立ち、同日午後に記事の根拠とされた「吉田調書」の公表に踏み切った。そこには従来からライバル各紙が指摘していたように、朝日報道を裏付けるような記述はなかった。

 朝日新聞社は、該当記事の責任者だった杉浦信之取締役編集担当の解任と、抜本的な社内改革の実施を発表した。会見では、木村社長自身も自らの進退について「社内改革を実行した後に速やかに決断する」と発言。WSJによると、「経営のトップとして、私自身も読者の信頼を傷つけた責任からは逃れられない」とも述べた。

【「慰安婦」誤報問題では各紙の論調に温度差】
 NYTは、今回の件について報じるとともに、いわゆる従軍慰安婦問題で、朝日新聞が日本軍による強制性の有力な証拠として度々取り上げてきた故・吉田清治氏の証言を虚偽と認め、関連記事を撤回した件についても詳しく論じている。

 NYTはその中で、朝日が誤報を認めるに至ったのは、以前から「朝日新聞の誤った記事によって日本の国際的な評判が傷つけられたという批判が、特に右派のメディア・政治家から高まっていた」からだと記す。そして、「(右派からの批判は)日本で最も抜きん出たリベラルの声である朝日新聞に打撃を与えるための、政治的なキャンペーンだという見方も多い」と、朝日も被害者だとする一部の国内世論を強調している。

 リベラル色が強い論調で知られるNYTに対し、保守系とされるWSJは、一連の誤報を報じる記事で、朝日を「左翼」「安倍晋三首相の政策に批判的な新聞」と表現する。「吉田調書」については、産経新聞などの保守系のライバル紙や週刊誌が、「朝日は故意に物語を誇張し、反原発の主張を強化するために事実をねじ曲げた」と批判を重ねていると記す。慰安婦の誤報については、「ライバル紙は、朝日には慰安婦問題によってこじれた日韓関係を修復する義務があると食ってかかっている」と記している。

 インドの英字紙『タイムズ・オブ・インディア』も、木村社長の謝罪会見の内容と共に「慰安婦」の誤報問題を詳しく報じている。記事の大半は一連の経緯を淡々と追ったものだが、「公式記録が少ない中、多くの研究者は、韓国、中国、インドネシア、フィリピン、台湾の最大20万人の女性たちが、“慰安所”で日本兵のために働いたと見ている」と、独自の見解で結ばれている。

【首相、官房長官のコメントも報じる】
 『タイムズ・オブ・インディア』は、木村社長が会見で、慰安婦関連の誤報についても「誤った記事を出し、訂正が遅すぎた」と、読者に謝罪したと報じた。 NYT、WSJ、『タイムズ・オブ・インディア』の3紙は、揃って池上彰さんのコラム掲載拒否問題についても触れている。これら海外各紙は、朝日の一連の誤報問題を包括的に捉え、メディア業界のみならず日本社会全体を揺るがしていると見ているようだ。

 菅義偉官房長官は、昨年死亡した吉田所長の遺志に反して「吉田調書」の公開に踏み切った理由を次のように説明した。

 「断片的に取り上げられた記事が複数の新聞に掲載され、一人歩きするというご本人の懸念が顕在化している。このまま非公開とするとかえって遺志に反する結果になると考えた」

 また、安倍首相は同日のニッポン放送のラジオ番組で、「慰安婦についての誤報で多くの人々が傷つき、日本が国際社会で信用を傷つけられたのは事実だと思う」と述べた(NYT、WSJ)。

朝日新聞元ソウル特派員が見た「慰安婦虚報」の真実 [amazon]

Text by NewSphere 編集部