吉田氏らは「福島の英雄」海外紙が敬意 食い違う日本の調書報道にも注目集まる

 政府は、福島第一原発の事故発生時所長として対応にあたった吉田昌郎氏(故人)の聴取をまとめた、いわゆる「吉田調書」を近日公開することを発表した。菅義偉官房長官が先月25日の記者会見で明らかにした。

 吉田調書は、吉田氏本人の意向により当初非公開とされていた。しかし5月に朝日新聞がその内容を入手し掲載、続いて8月には産經新聞も報じたことから、非公開にする意味がなくなったと判断された。

 同調書の内容については、複数の報道機関が伝えているが、その論調は各メディアで全く異なる。この点に海外各紙は注目している。

【食い違う2紙の言い分】
 各メディアの違いが顕著に表れたのが、「3月15日に職員が福島第二原発へと一時避難した」点についての解釈だ。

 英エコノミスト紙は、まず朝日新聞を「国内きってのリベラル派で原発の再稼働に批判的な媒体」と紹介した上で、職員の避難について朝日は「吉田所長の指示に背き、危機的状況が高まる中逃げたと報じた」と伝えている。

 一方、産經新聞については「朝日とは真逆の保守派ライバル紙」としている。産經は同じことに関して「職員の避難は所長の指示に背いたのではなく、伝え聞きが重なったことにより指示内容に混乱が生じただけ、と報じた」と伝えている。さらには吉田氏自身、後から「その行動はむしろ適切だった」と合意していたくらいだとも報じている。

 この食い違いの背景は、「原発政策の失敗を浮き彫りにしたい朝日」と、「責任をどこかよそへ、とくに2011年当時首相だった菅直人氏に持っていきたい産經」という、それぞれの思惑の違いにある、と同紙はみている。

【海外でも広がった誤解】
 いまや反原発派の菅直人氏は「東電の全面撤退を阻止した」と主張している。しかし、「そもそも吉田氏率いる現場は撤退など考えもしなかった」ということが、朝日以外のメディアにより伝えられている。

 特に産經新聞は、吉田所長の「菅氏が余計なことをして事態を悪化させた」という認識を強調している、とエコノミスト紙は伝えている。

 また読売新聞も「菅氏が東電の撤退を阻止したと主張しているが、現場は誰も逃げてなどいない」と吉田氏は反発したと報じている。さらに朝日の報道が原因で、海外メディアから「命令に背いて作業員が逃げた」というような報じられ方をされてしまった、と述べている。

【真逆のメディアでも唯一合意する点とは】
 共同通信は同調書について、吉田氏が「関東も含む東日本全域壊滅」も意識していたことに言及している。そのような最悪のシナリオも有り得たことを考えると、被害は食い止められた、とニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。

 それは、注水による冷却措置を続けた吉田所長のおかげによるところが大きい。吉田所長と68人の部下は、日本を最悪の事態から救った人物、と同紙は伝えている。

 エコノミスト紙も、吉田氏を「福島の英雄達の中でも、特筆すべき存在」と述べている。調書の解釈については食い違う各メデイアも、吉田氏が「強い、頼れる男」であったという点では合意している、と同紙は伝えている。

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Text by NewSphere 編集部