川内原発再稼働は冬以降か 遅延相次ぐ アベノミクスに悪影響と英誌

 間近とみられていた日本の原発再稼働だが、遅れが生じていることを海外各紙が報じている。

 原子力規制委員会(NRA)は7月16日、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の1号基と2号基が「新規制基準に適合している」とする審査書案を了承した。しかし、周辺環境に配慮した対策のための「工事計画」について追加の詳細な書類を提出することも求めており、九電によるその作成が遅れていることから、再稼働は2015年にずれ込むのではないかとの予想だ。

【再稼働はいつになるのか】
 九電の広報担当者は、再稼働までの日程は確定しておらず、追加の書類提出は9月末から10月になるだろうと説明した(NHK)。九電は、「(再稼働が)いつになるかは断言できないとずっと申し上げてきた」と期日の明言を避けている。

 ロイターは、最終的な承認後も、施設を有する県と住民の判断によっては延期の可能性もあるとみている。また、工事計画は、安全基準の承認とは別の要求事項で、再稼働までには完了しなければならないと規制委員会は説明している(ブルームバーグ)。

 SMBC日興証券の塩田英俊氏の予想では、川内原発の再稼働は2015年の第1四半期頃、関西電力の高島原発2基がこれに続き4月から6月、九電の玄海原発が同年の7月から9月、北海道電力の泊原発は2016年の6月までに1基、同年9月にはあと2基再稼働するだろう、としている(ブルームバーグ)。

 再稼働に備え薩摩川内市では、原発周辺の各家庭にヨウ素の錠剤が配られた。事故が発生した際、甲状腺がんを防ぐためだ。しかし、基本的な緊急避難経路などの設定はいまだなされていないようだ。また、同施設から約50キロしか離れていない位置に日々噴煙を上げる活火山桜島があるが、その影響についての議論は十分ではない、とエコノミスト誌(8/2付)は報じている。

【電力会社の赤字増加】
 九電は、川内原発2基が稼働すれば、年間で2000億円分の石油購入が削減できると説明している(ロイター)。

 国内48基の原子炉は、2011年3月の震災後、次第に操業を停止し、そのままだ。電力各社は電力供給のため、記録的な量の石油と石炭を輸入しなければならなくなっている。

 ロイターによると、日本の電力会社は3年間で340億ドル以上の損失を出した。九電は、7月31日、第1四半期(4~6月)に410億円の損失を報告した。現在、政府の補助金を受けている。

 電力会社は、電気料金の値上げで経営を支えようとしている。川内原発の再稼働が遅れれば、九電はさらなる値上げを検討することになるだろう(ロイター)。

【原発再稼働の政治的代償は大きい】
 安倍晋三首相は、原発推進を公言している。川内原発の再稼働がその他多くの原発再稼働に道筋をつけてくれれば、と期待しているようだ(エコノミスト誌)。

 原発が稼働すれば、燃料の輸入で増加している日本の貿易赤字はたちまち半分になるだろうし、原発の再稼働なしでは、安倍首相の経済政策はつまずくことになるだろう、と同誌はみている。

 テンプル大学のジェフ・キングストン教授は、最初の原発再稼働として薩摩川内市の原発を選んだのは政治的に賢明な策だ、と指摘した。過疎が進んだ地域では経済的選択肢がほとんどなく、原発の存在は長年支持された政策の象徴だという。このような地域では、原発が雇用を創出し、政府からの原発関連の補助金で公園や美術館が建設されている。

 また、川内原発は、福島から遠く離れている。隣の姶良市で市議を務める湯之原一郎氏は、福島第一原発の原子炉がメルトダウンを起こした大惨事について、薩摩川内市の住民の多くは関心がより薄い、と指摘している。原発の操業停止が、地方の住民にとって何を意味するかは、原発推進派が議会で圧倒的多数を占めていることからもわかる。

 ただ、国政では、安倍首相は犠牲を払うことになるかもしれない。首相への最近の支持は、以前の勢いがない。7月、自民党は滋賀県知事選で敗れた。県民の原発への反感がひとつの敗因だった、と同誌はみている。さらに、最近の世論調査では、約5分の3の人が川内原発の再稼働に反対だ。

 エコノミスト誌は、国中の原子炉再稼働のためには、安倍首相がその政治的財産を大幅につぎ込まなくてはならないだろう、と結んでいる。

※本文中「九電は、7月31日、第2四半期に410億円の損失を報告した。」は「九電は、7月31日、第1四半期(4~6月)に410億円の損失を報告した。」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済みです。(8/8)

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Text by NewSphere 編集部