“放射線の影響とは限らない” 福島の甲状腺がんに海外メディアも注目

 福島県は、2011年の福島第一原発の事故後、放射線による健康への影響を調べるため、「県民健康管理調査」を実施している。その中で、事故当時18歳以下だった県民全員を対象として、甲状腺検査を行ってきた。これまで、約27万人が検査を受けたが、そのうち33人が、甲状腺がんだったことが判明している。さらに、41人について、がんの疑いがある、と公表されている。

【これまでを大きく上回る、がん発生率】
 ガーディアン紙の報道によると、日本国内ではこれまで、10~14歳での甲状腺がんの年間発生率は、100万人当たり1~2人であった。福島県の検査は、もっと幅広い年齢を対象としており、年齢とともに、甲状腺がんの発生率は上がる。しかしそのことを考慮に入れても、約27万人中33人(100万人当たりに換算すれば約122人)という数字は、たいへんに大きなものだ。ドイツの公共国際放送ドイチェ・ベレは、これが、世界の全世代平均より、4倍近く高いことを指摘している。

 これは、原発事故の影響によるものなのか、それとも、この検査が、前例のない規模で、最新の検査機器を用いて行われていることから来るものなのかで、議論が起こっている、とガーディアン紙は伝える。

【チェルノブイリ原発事故の教訓】
 そもそも、今回の原発事故で、甲状腺検査が行われることになったのは、1986年のチェルノブイリ原発事故に端を発する。大量の放射性物質が放出され、その後、子供たちに甲状腺がんが急増した。専門家によると、同事故において、放射線による一般人への健康被害として、科学的に確認されているのは、この甲状腺がんだけであるという。

 ガーディアン紙によると、事故や、放射線の危険性について、ウクライナやロシア、ベラルーシの人々は、当初、十分に知らされておらず、汚染された牛乳や作物を食べ続けた。「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)によれば、2005年までに、これらの国から6000人以上の甲状腺がん患者が報告されている。

【“福島はチェルノブイリではない”】
 けれども、福島での事故で拡散した放射性物質の量は、チェルノブイリの事故よりはるかに少ないことなどから、専門家の間では、福島が同じ道をたどることはない、とする声が多いようだ。ロイターなどによると、昨年5月、UNSCEARは、福島原発事故の影響によってがんの発生率は上がらない、とする見通しの報告書を発表した。

 また、チェルノブイリの場合、甲状腺がん患者数が増加し始めたのは、事故から4年以上経ってからだった、とガーディアン紙は伝える。今回、福島県の調査で明らかになった甲状腺がんは、当然、みな3年以内に見つかったものだ。その他、患者の年齢分布の違いなどから、「現時点では放射線の影響は考えにくい」と、日本の専門家は述べている。

【県に対する不信が広がりつつある】
 しかし、低い放射線量であっても、長期間浴びた場合の健康への影響に関しては、専門家のあいだでも意見が分かれている、とガーディアン紙は伝える。将来、がんのみならず、免疫不全のように、目につきにくい病気が増えるかもしれない、という見解を紹介している。今後も引き続き調査が必要だという点では、どの専門家も一致しているようだ。

 また、住民のあいだで、「県民健康管理調査」を実施する県に対し、不信が広がりつつあることを、同紙は報じている。住民の不安を引き起こさないようにせよ、という政府からの圧力に、県は支配されている、という。ドイチェ・ベレは、情報開示に積極的でない県の姿勢を、批判的に報じている。

 福島で甲状腺がんの患者数が増加したのは、本当に一斉検査を行ったためなのかを確かめるため、原発事故の影響を受けなかったどこか他の地域でも、一斉検査を行ってほしい、と一部住民は求めている。日本政府は、この要求を拒み続けている、とガーディアン紙は報じている。

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Text by NewSphere 編集部