TPPに逆風か? 中国主導の「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」構想が前進 海外紙注目

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が、11日閉幕した。会議の成果として採択されたAPEC首脳宣言では、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」構想について、実現に向けた努力を加速し、可能な限り早期の実現を目指すことがうたわれた。FTAAPは、APECに参加する21の国と地域の経済を統合し、アジア太平洋地域全体を自由貿易圏とする構想である。

◆中国のFTAAPへの注力が目立った北京APEC
「地域経済統合の進展」は、今年のAPECの優先分野の一つだった。議長国だった中国は、海外メディアの伝えるところによると、FTAAPの実現を促進することに非常に熱心だったようだ。中国の習近平国家主席は11日、APECの参加国・地域はFTAAPを精力的に促進し、可能な限り速やかにこの未来図を現実に変えるべきであると語った(タイム誌、ガーディアン紙)。

 会議ではFTAAP実現に向けた「北京ロードマップ」が承認された。また、共同の「戦略的研究」を開始することで合意したが、『チャイナ・ブリーフィング』のクリス・デボンシャー・エリス氏の論評によると、このことが今回の会議の主要な成果であるという。習主席自身は、これを実現に向けた「歴史的一歩」と語った。「研究」の結果は2016年末までに報告される。

◆“アメリカのTPP”対“中国のFTAAP”という構図?
 中国がFTAAPを促進する一方で、アメリカは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を支持している。TPPは12ヶ国の協定であるが、最も重要なことには、そこには中国が含まれていない。このどちらが実現に至るかは大きな含意を持つだろう、とタイム誌は語る。同誌はFTAAPとTPPを二者択一的なものとして伝えている。

 アジアからの輸出のうち、アメリカ向けが占める割合が低下している一方で、多くのアジア諸国にとって、いまや中国が中心的な貿易相手国となっている。これにより、東アジアでの中国政府の政治的影響力が増し、アメリカの影響力は低下している、と同誌は分析している。

 中国政府はこの傾向を持続させたいと考えており、それ故のFTAAP推しである。アメリカのほうは、東アジアにおける影響力を維持し、増大する中国の力に対抗する手段として、TPPを求めている。中国とアメリカのこの競争が、今後数年間でどのように展開するかが、アジア太平洋地域の政治、経済の未来、ことにアメリカが今後数十年間アジアで果たすかもしれない役割を決定することに寄与するだろう、と同誌は語っている。

◆FTAAPはアジアでのアメリカの影響力を減らすための中国の戦略?
 ガーディアン紙は、中国によるFTAAP推しが、アメリカへの対抗と見られていることを伝える。FTAAPは、アメリカが支持するTPPから注目をそらす方法とも見なされている、と伝える。中国は、アジア地域の大国をアメリカ政府の支配から引き離すためにFTAAP推進運動をしている、とアナリストらが主張しているという。

 中国は、オバマ大統領がTPPを、中国にも参加させることで市場を開放するよう強いる手段、あるいは中国を他のアジアの国々から孤立させるための手段、このどちらかとして用いるようになることを危惧しているという。

 また同紙は、安倍首相が、中国が今年、FTAAPの実現に向けたロードマップ作成に尽力したことを歓迎した、と報じた。経済産業省によると、安倍首相は会議で、日本はFTAAPのロードマップを支持し、その実現に向け、環太平洋パートナーシップ(TPP)等を積極的に推進すると発言した。つまり、TPP実現の先にFTAAPがある、というスタンスだ。

◆TPPもFTAAPもうまく行かない?
『チャイナ・ブリーフィング』の論評で、エリス氏は、「研究」の開始について合意がなされたことにより、TPPと「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」は、自分の意見では、おそらく立ち行かなくなるだろう、と述べている。その理由はつまびらかにされていない。RCEPは、ASEAN10ヶ国と日本、中国など6ヶ国、計16ヶ国間の広域の自由貿易協定(FTA)の構想だ。アメリカは含まれていない。

 しかし一方で、FTAAPを含め、アジア太平洋地域全体が対象となる自由貿易協定は、今後、どんなものでも重大な障害物にぶつかりそうだ、とエリス氏は語る。アメリカがロシアに対して、ウクライナ問題への制裁として通商禁止措置を行っているためだ。

 そこで(消去法的に、東アジアでの)自由貿易はRCEPのもとで実現する可能性が高くなると予想しうる、と氏は述べている。RCEPには、アメリカもヨーロッパも参加していないが、外資系企業であってもASEAN内で登録されていれば、その恩恵を受けられるという。「研究」の合意により、TPPはこの上さらに遅らされそうだ。自由貿易の恩恵を受けたいアメリカ企業は、ASEANでの投資を考えたほうが良い、と氏は語っている。なお、氏はアジアでの海外直接投資の専門家である。

Text by NewSphere 編集部