なぜ円安なのに、過去最大の貿易赤字? 工場移転と新興国停滞が背景に

 政府の21日の発表によると、輸出入の差額を示す貿易収支が、2013年度は過去最大の13.7兆円の赤字を記録した。貿易赤字は3年連続だ。これは1970年代に統計をとり始めて以来、最長となる。

 輸出量は0.6%(年度比)の増加。それに対し、輸入量は2.4%の増加となった。

【予想を超えた貿易赤字】
 クレディ・スイス証券チーフ・エコノミストの白川浩道氏は、「輸入量の伸びは、予想していたよりも大きかった」(フィナンシャル・タイムズ紙)と話す。3月の赤字は、ブルームバーグのエコノミストによる予想平均の約1兆円を上回る1.45兆円だった。

 これは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙と日本経済新聞のエコノミストが出した予想の平均1.07兆円よりも悪い数字だ。

 輸出の弱さに関しては、国際通貨基金(IMF)の予想が当たっているようだ。IMFは4月はじめ、2014年の世界的経済成長を3.7%から3.6%に下方修正した。新興国の経済成長に慎重な姿勢だ。

 ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)証券チーフ・エコノミストの 西岡純子氏は、「円安が続いているにも関わらず、日本の輸出は韓国や台湾に比べ極めて低調だ」「原発の再稼働を政府が決めなければ」貿易バランスはさらに悪化するだろうと予想している(ブルームバーグ)。

 三井住友アセットマネジメント・シニアエコノミストの武藤弘明氏は、エネルギー価格の上昇、輸出が今後も減る可能性を挙げて「日本の貿易赤字の状態は少なくともあと3年は続くだろう」(ブルームバーグ)とみている。

【なぜ赤字が拡大したか】
 エネルギー価格の上昇に、増税前の駆け込み需要も加わって、3月の輸入額は膨らんだようだ。

 輸出については、トヨタなど一部の大手企業は円安の影響を受け利益は増加したが、量的には3月は前年比2.5%減となった、とウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。

 フィナンシャル・タイムズ紙は、日本の製造業が安い労働力を求めて拠点を海外に移す傾向が続き、家電製品などは国際的な競争力を弱めている。これらが、円安下でも輸出を押し上げることができない要因だ、と分析している。増税前の一時的影響があったにせよ、特にアジア向けの輸出が低調で、安倍首相の経済回復の努力への新たな壁となっているという。

  西岡氏は、「海外の経済状態が改善しても、輸出を伸ばすことは依然難しいだろう。輸入も同時に増え、貿易赤字が膨らむ危険があるからだ」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)とみている。

【明るさを示す経済指標】
 輸入の伸びは、増税後でも国内消費が好調を続ける可能性を示しているとの予想もある(ブルームバーグ)。増税前に輸入された商品が4月以降に国内市場に出回ることで、消費の好調が続くとの見方もあるようだ。

 また、他にも早期の消費回復を期待させる明るい要素がある、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は内閣府調査の数字を挙げている。それによると、家電製品の売上の落ち込みは、4月第1週に19%だったが、第2週には2%に縮まった。食料品では17%から10%と改善した。

 一方ブルームバーグは、3月の百貨店の売り上げが1991年以来過去最高となったことを取り上げ、安倍首相は増税の影響で国内消費が落ち込まないように策を講じなければいけない、としている。

 総じて海外紙は、日本の貿易赤字拡大の背景にある構造的な課題を指摘しつつ、短期的には増税の悪影響はそれほど大きくないとの論調といえる。

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Text by NewSphere 編集部