日米TPP交渉 農産物の関税引き下げで、自動車関税撤廃勝ち取れるか? 安倍首相のリーダーシップに海外注目

 今月下旬、オバマ大統領が訪日するのに先立って、日米間で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐる協議が活発化している。7日から実務者協議が行われたほか、9日には、甘利経済再生担当大臣とアメリカのフロマン通商代表による閣僚協議が始まった。

【日米間で行き詰っているTPP交渉】
 しかし協議は、順調に進んでいるとはとても言えない状況にある。日本側は、米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の「重要5項目」については、関税を引き下げることで収めたい。一方アメリカ側は、それらについても関税の撤廃を要求している。実務者協議でも、この問題は平行線のまま、物別れに終わった。

 ロイターは、協議の見通しについて、悲観的な見方を紹介している。両国間の隔たりを埋めるのは困難だろう、と当局者は予告していたという。その隔たりの例として、記事が挙げているのは、「重要5項目」の問題、そしてアメリカでの自動車の輸入関税である。現在、アメリカでは、普通乗用車に対して2.5%、SUVやバンなどを含む“ライトトラック”に対しては25%の関税がかけられている。日本は、この関税の撤廃に向けて、タイムテーブルを示すようアメリカに求めている。(なお日本では、外国車の輸入に関税はかけられていない。)

 ロイターによると、フロマン代表は自国の議員らに対して、日本が貿易障壁を減らすことに前向きでないせいで、TPPについての合意が妨げられている、と語った。一方で、日本の当局者は、アメリカ政府側がもっと柔軟になる必要がある、と語っているという。

【オーストラリアとのEPA締結は、TPP交渉にも影響するか】
 協議の先行きについて、もう少し明るい見通しを示しているのがAFPだ。日本は7日、オーストラリアとの間で、経済連携協定(EPA)の締結を大筋で合意した。このことがアメリカとのTPP交渉においても、日本にとって弾みとなる、という見方を紹介している。

 このEPAで、オーストラリアは、日本からの自動車輸入に現在かけられている5%の関税を、大部分の車種で即時撤廃、大型車は締結から3年目に撤廃するとしている。これに対して、日本側は、牛肉の輸入関税を引き下げる。現在の38.5%から、ゆっくりと段階を踏んで、冷蔵牛肉では15年目に23.5%まで、冷凍牛肉では18年目に19.5%まで下げることになる。

 牛肉という農産物の輸入では、関税撤廃ではなくて関税引き下げで応じ、反対に自動車の輸出では、相手国の関税撤廃を勝ち取る――。この図式は、日本がアメリカとのTPP交渉で求めているものにそっくりだ、とフィナンシャル・タイムズ紙が指摘している。

 ただしフィナンシャル・タイムズ紙は、アメリカ側はこのような解決では満足しないであろうことを伝えている。フロマン代表は、閣僚協議に先立ち、われわれがTPPに期待しているのは、これよりはるかに高い水準だ、という趣旨のコメントでけん制した。

【安倍首相の“突破力”が問われている】
 TPP協議の今後を占う上で、大きな要素となるのが、安倍首相のリーダーシップである。

 AFPは、日本の農家はこれまでずっと、農協を通して、自民党の有力な支持基盤だったことを紹介する。当然、農産物の輸入関税削減には、強く反対している。今回、安倍首相がその反対を押し切って、日豪EPAで一部とはいえ農産物の関税削減を実現したことは、安倍首相の力量を示すものだと記事はほのめかしている。

 また、日豪EPA交渉において、牛肉やその他の重要品目は、除外ないしは再協議の対象とするよう求める決議が、衆参両院の農林水産委員会でなされていた。にもかかわらず、EPA締結で合意に達したのは、安倍首相による現状打破と見なしうる、という日本のアナリストたちの視点を、フィナンシャル・タイムズ紙は紹介している。

アベノミクスとTPPが創る日本 [amazon]

Text by NewSphere 編集部