ラガルドIMF専務理事が世界経済のデフレ危機を警告 日本には「もっとできることがある」

 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は15日、ワシントンのナショナル・プレスクラブでの講演で、世界経済の回復はいまだ弱々しく、今後はさらにデフレの脅威に立ち向かわなければならないと警告した。デフレ脱却を目指す日本の「アベノミクス」に対しては一定の評価をしながらも、「もっとできることがある」と注文をつけた。

【デフレは断固として立ち向かうべき鬼】
 ラガルド専務理事は、講演で「インフレが悪魔ならば、デフレは断固として立ち向かうべき鬼だ」と、独特な言い回しで警告を発した。「世界の多くの中央銀行は今、インフレ対策に注力しているが、今後はむしろデフレのリスクの拡大が懸念される。いったんデフレに陥れば、回復は非常に困難となるだろう」

 世界経済の現状については、アメリカ、日本、ユーロ圏などの先進国経済は「極度の低温状態からは脱した」としながらも、世界の成長については「あまりに低調、脆弱、不平等だ。いまだ約2億人分の雇用が不足している」と分析した。

 続いて、「こうした情勢下にあって、現在先進国に広がる低いインフレ率が、日本経済を20年間に渡って停滞させたような物価の低下を招くかもれない」と日本を引き合いに出して警告した。

 フィナンシャル・タイムズ紙は、今回のラガルド発言を「高レベルの政策決定者としては初めて、デフレの危機を警告した」と紹介した。同紙は、発言を裏付ける形で「アメリカの消費者物価指数は昨年1.2%しか上昇しなかった。また、ユーロ圏のインフレ率はたった0.8%に下がり、失業率は12.1%に留まっている」と欧米の経済情勢を分析した。

ブルームバーグも「アメリカ、日本、ユーロ圏の中央銀行は事実上のゼロ金利政策や債券購入プログラムなどを通じて成長加速を目指している。しかし、インフレ率はいずれも中銀目標を下回っている」と報じ、デフレ危機の兆候を懸念する。

【景気対策の継続と雇用創出で「鬼退治」を】
 ラガルド専務理事は、デフレという「鬼」を退治するためには、「先進諸国の中央銀行は、強固な成長がしっかりと根付くまでは、資産購入プログラムなどの金融政策や景気対策を継続するべきだ」と提案した。

 また、「世界的なインフレの鬼が瓶から出てくる心配をする前に、世界はもっと仕事を創出することができる」と発言。デフレを防ぐためにも、雇用対策が緊急課題であることを示唆した。

 これらの発言に関連して、BBC、ブルームバーグなどは、米連邦準備銀行が月間の債権購入額を850億ドルから750億ドルに引き下げるなど、ラガルド氏のアドバイスとは逆に、景気刺激策を弱める方向に向かっているアメリカの情勢に触れている。

 BBCは、このアメリカの動きによる影響は今のところ見られないものの、「ブラジル、トルコ、インド、インドネシアなどの新興国が影響を受けるかもしれない」という識者のコメントを掲載した。

【社会・経済の変革に挑戦できるかが日本の浮上の鍵】
 この日のスピーチでは、日本についても言及された。フィナンシャル・タイムズ紙とブルームバーグによると、ラガルド専務理事は「アベノミクス」が日本経済を15年間に渡るデフレから引き上げつつあることを賞賛する一方、「日本政府や日銀にはもっとできることがある」と指摘した。

 今春行われる予定の消費税増税にも触れ、「短期的な景気対策が増税によるネガティブな効果を相殺する助けになるだろう」と述べた。また、「中期的な財務調整と、経済成長に必要とされる社会的・経済的な変革に日本社会全体が一丸となって挑戦できるかどうかが鍵となる」と語った。

「2014年は、経済学的な言い回しで言うところの”7年の弱い年月”が”7年の強い年月”に移行する年であってほしい。これが私の大きな願いです」

Text by NewSphere 編集部