アプリで再生、「聴く」タトゥーが大反響 人はなぜ音を体に刻むのか?

Microgen / shutterstock.com

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 亡き父が残したボイスメッセージ。愛する犬の鳴き声、大好きな一曲。もし、自分の大切な「音」を、永遠に体の一部にすることができたら?

◆いま「聴ける」タトゥーが話題に
 タトゥーからオーディオを再生することができるアプリ「Skin Motion」が、今月提供を開始する。「Sound Wave Tattoo」は、専用アプリを使って音を再生することのできるタトゥーで、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動するタトゥーアーティスト、ネイト・シガード氏が生み出した。

 その仕組みはこうだ。まずは最長1分までの自分の好きな音声や曲を、専用アプリへアップロードする。そこで生成される音波のタトゥーデザインを購入してからプリントアウトし、Skin Motion社によって認可されたタトゥーアーティストへ渡して、好きな場所へ施術してもらう。完成したタトゥーの画像を同アプリで撮影し、すでにアップロードしたオーディオファイルと画像データが同期されれば完了。スマートフォンもしくはタブレットでアプリを開き、タトゥーへかざすと、いつでもその音を再生することができる。

◆はじまりはエルトン・ジョンの名曲「Tiny Dancer」
 ある時、シガード氏はエルトン・ジョンの「Tiny Dancer」の一部分を、曲の音波のデザインで友人2人へ施術した。それを見た彼のパートナーのジュリアナさんが何気なく言った、「タトゥーから音が聴けたらクールじゃない?」という一言が、アイデアのきっかけとなる。

 それから彼は自分自身の脚にパートナーと当時生後4ヶ月の娘の声を入れたSound Wave Tattooを施し、翌日Facebookへその様子を投稿したところ、動画は7000万回再生され、すぐにネットで広まり話題に。世界中の数千人以上から問い合わせを受けるという大反響を受け、誰もがこのSound Wave Tattooを利用できるようにするため、今年4月に「Skin Motion」社を創立した。同社では新たなプラットフォームを開発しており、アプリ「Skin Motion」はその最初のプロダクトで、現在特許申請中だ。

 現時点でSound Wave Tattooを希望する人々のウェイティングリストは1万人を超えているほか、世界15ヶ国の数百人のタトゥーアーティストたちから、認可を取得するためのトレーニングの希望が集まっている。

◆悲しみを癒す方法としてのタトゥー
「タトゥーで人々の悲しみを癒すだけではなく、それらを共有することで、彼らが自分自身をより深く理解するための手助けとなりたい」と、NBCのインタビューでそう述べるシガード氏は、ミュージシャンのアルバムアートワークやVJなども手がけてきた、多方面で活躍するアーティストだが、以前は技術的なデジタルプロダクトの構築業務に携わっていた。タトゥーアーティストの仕事を選んだ理由を「デジタルは永遠ではない。人と繋がり、より何か意味を持つことができ、5年後も消えないような仕事がしたいと思うようになった」と語っている。

 トロント在住のテクノロジーエキスパート、エイブリー・シュワルツ氏は、皮膚そのものから音を発するわけではないSound Wave Tattooに対し「実際にはハイテクではない」としながらも、このアイデア自体については賞賛している(CBC)。

 確かに、聴くためにはアプリが必要であるならば、音を入れたスマートフォンを持ち歩けばよいのではないか。アプリが使えなくなった場合は、一体どうするのか。そういった疑問が湧くかもしれない。しかし、そういうことではない。大切な音を、自分の肉体へ刻み込み、生涯を共にする。そのコンセプトこそが多くの人々を惹きつけているのだ。実際にこれまで受けた数千件の問い合わせの多くは、失った人との思い出を保存することが理由だという(デイリー・メール)。

2年前に亡くなった父の言葉を彫る少年

 同じくトロント在住のテクノロジーエキスパート、アンバー・マック氏は、人体におけるテクノロジーでの実験を、特に医療分野においてこれからより多く目にすることになるだろうと予測している(CBC)。

 縄文時代の土偶の模様は入れ墨を表しているという説もあるように、世界中で古代から存在してきたとされるタトゥー文化。そんなタトゥーから「聴く」という文化ができるほどテクノロジーが進化してしまった今、そこに映し出されているものは、よりリアルさを求め、大切な存在といつまでも共にあり続けようとする、人間らしい姿ではないだろうか。

Text by Sara Sugioka