コーヒーで「全力休憩」を始めよう!スウェーデンの伝統文化「フィーカ」とは

 眠気覚ましに、食後のくつろぎに、午後の活力注入に……。近年はコンビニでも手軽にクオリティーの高いコーヒーが手に入ることもあり、日本のサラリーマンの仕事とコーヒーは切っても切れない関係になりつつある。立ったまま、歩きながら、さらにはパソコンとにらめっこをしながらコーヒーを楽しむ「ながらコーヒー」は、職場での生活の一部となりつつある人も多いことだろう。しかし北欧の国スウェーデンには、そんな我が国の「ながらコーヒー」とは対局に位置するコーヒー文化があるという。仕事のことは一切忘れ、全身全霊で休憩する、ハードコアなコーヒーブレイク「フィーカ(fika)」だ。

◆コーヒーはストレスフリー労働への入り口
 フィーカ(fika)とはスウェーデン語で「コーヒー」または「コーヒー休憩」という意味だ。職場や家で、同僚や友人と焼き菓子を片手にコーヒーを飲む文化である。意外と知られていないが、世界有数のコーヒー消費大国であるスウェーデンで、彼らの生活に古くから根付く習慣のようだ。

 それだけだと日本のコーヒー休憩と全く変わらないように思えるこのフィーカだが、実はこの言葉には単なる意味以上の哲学が詰まっている。アメリカのニュースメディア『Quartz』の2016年の記事で、スウェーデンの労働者が世界で最もストレスが少ないその秘密の一つは、フィーカにある、と語られたほどだ。

◆フィーカは哲学でありメディテーション
 そもそも日本の「ながらコーヒー」の文化はアメリカのそれと類似している。『フィーカ:スウェーデンのコーヒー休憩の芸術』の共同著者であるアメリカ人作家、Anna Bronesは住生活情報サイト『アパートメント・セラピー』で次のように記している。「私たちアメリカ文化の中でのコーヒーは、紙コップにテイクアウトして、エナジーを注入し、素早く働くためのものとして位置付けられている。その一方でスウェーデンのコーヒーは、楽しみにすべきもの。何もかもが一時停止し、その時間を味わうためのものなの」

 日本やアメリカのように「エナジー注入」としてではなく、仕事のことを全て忘れ「休憩だけに完全に意識を集中させる」メディテーションのような哲学をもつという意味で、フィーカと「ながらコーヒー」はそのコンセプトが大きく異なっているのだ。

◆コーヒー休憩は、職場の義務
 忙しい毎日を一時停止し、しっかりと休憩する機会を作るこのフィーカは「多くのスウェーデンの会社で義務化されている」と、BBCは報じている。コーヒー休憩の義務化が仕事の生産性を下げるのではないかという懸念もあるかもしれないが、OECDが2014年に38ヶ国で実施した労働生産性に関する調査によると、スウェーデンは世界11位の生産性を誇ることが報告されている。

 長時間労働が問題視される日本が20位、韓国が30位という結果になっていること、さらには上述のようにスウェーデンの労働者が世界で最もストレスフリーであることからも、単に働き詰めになるのではなく、適度な休憩とリラックスが生産性と労働者の満足度を高めるために重要であることを示しているのかもしれない。

◆世界に広がる、コーヒーメディテーション
 このフィーカ文化は近年世界的なトレンドとして広がりをみせている。BBCによると、ニューヨークやロンドン、シドニーなどの大都市では、以前のようにエナジー注入のためにコーヒーをテイクアウトするのではなく、15分ほどの休憩時間を作ってフィーカに行く人々が増え始めているようだ。

 仕事の生産効率や職場の満足度を高め、さらには休憩時間を利用してカジュアルに同僚や上司と親交を深めることができるフィーカは、仕事をより円滑に楽しく健康的に行うための秘訣かもしれない。あなたもぜひ明日から「ながらコーヒー」に代えて、フィーカを試してみてはいかがだろう。

Text by 高橋由佳