1000万円で愛犬のクローンを作製…韓国企業のサービスが世界で人気 倫理面などで批判も

 ペットは大切な家族の一員だが、高齢になれば、飼い主はいずれ来る別れの時を恐れ、逝ってしまえば、楽しかった日々を思い出しペットロスに苦しむこともしばしばだ。そんな悩みを持つ愛犬家に、韓国の研究所が愛犬のクローン作製サービスを提供し人気となっている。しかし、クローン動物を巡っては、課題や問題点もあるようだ。

◆ペットは我が子と同じ。ずっと一緒にいたい
 平成22年の内閣府発表による 「動物愛護に関する世論調査」によれば、ペット飼育がよい理由として、61.4%の回答者が「生活に潤いや安らぎが生まれる」と述べており、ペットが飼い主にとって大切な存在となっていることがうかがえる。

 愛犬を交通事故で無くしたジャーナリストのバージニア・ヒューズ氏は、ナショナル・ジオグラフィック誌で、「ペットは飼い主にとって子供のようなもの。一緒に遊び、赤ちゃん言葉で語りかけ、常に『うちの子』と呼んで抱いたり撫でたりし、我が子のように接する」という心理学者ジョン・アーチャーの言葉を引用し、死んだ愛犬も「たった一人のわが子だった」と語っている。

 ニューヨーク・マガジン(NYMAG)は、飼い主の中で一定数の人が、何度も同じ種類のペットを飼う、「ペット反復症候群」なるものにかかっていると述べる。犬の場合は犬種によって気性もさまざまで、毛や皮膚の手入れなども異なる。一般的に人は慣れ親しんだものを好み、予期せぬものを嫌うと説明する同誌は、新たなペットを飼う事自体が、飼い主にとっては十分に大きな変化だとする。そして、ペットが老いる、または死んでしまえば、こういった実質的なことを超え、「もう一度同じ犬を」という非現実的な心の問題が出て来るのであり、このような飼い主たちの心をつかんだのが、韓国の愛犬クローンビジネスだと述べている。

◆同じものは出来ない。ペットのクローンは無意味?
 AFPによれば、愛犬のクローン作製を請け負うのは、韓国の秀岩生命工学研究院だ。2006年以来、愛犬家のみならず、警察犬、麻薬探知犬など、優秀な犬の複製を望む機関のために800匹近くのクローン犬を誕生させており、1匹あたり10万ドル(約1000万円)の費用がかかるという。

 創始者のファン・ウソク氏は、世界で初めてヒトクローン胚から幹細胞株を作り出したという論文をサイエンス誌に発表し、韓国の国民的ヒーローとなったが、後日研究に不正があったことが発覚し、さらに研究費着服や生命倫理に関する違反で有罪となったいわくつきの人物だ。そのこともあって支援者や顧客は名を明かしたがらないが、クローン作製依頼は世界各地から来ているという。

 同研究院の広報担当者は「(クライアントは)クローンは元のペットの一卵性双生児だが、多くの遺伝的素因を持ち元のペットと同じように成長する可能性があると理解している」と述べている(AFP)。

 これに対し、20年前に成熟した雌羊の細胞からクローン羊の「ドリー」を作製したイアン・ウィルマット教授は、クローン・ペットは意味がないと主張する。同氏によれば、クローン動物の性格は、環境や育て方により変わり、オリジナルと全く同じ外見を再生することもできないと述べている(テレグラフ紙)。NYMAGも、一卵性双生児の場合では、DNAは同じでも性格に違いが現れ、容姿も見分けが可能だとし、ウィルマット教授と同じ見解を示している。

◆クローン犬が負うリスクと愛犬家のエゴ
 ファン・ウソク氏は、AFPに、生まれた仔犬を見た時の飼い主の純粋な喜びに、自分がやっていることの意義を見出すとし、クローン犬の作製が大好きな仕事だと述べているが、ウィルマット教授は、クローンに大金を使うぐらいなら、自然に生まれた別の仔犬を買うべきだと主張する(テレグラフ紙)。NYMAGは、飼い主の愛犬への愛情と信頼は分かるが、動物を愛する者ならば、10万ドルにはもっと良い使い道があるはずだと述べている。

 英国動物虐待防止協会は、「クローン動物には腫瘍、肺炎、異常な成長パターンなど、疾病にしばしば苦しむという数々の証拠がある」とし、クローニングには深刻な倫理的、動物愛護的懸念があると警告している(テレグラフ)。生まれてくる動物が負うリスクを考えれば、クローニングは今の時点ではまだまだ危険な行為といえそうで、飼い主のエゴで動物を作り出すことには、慎重な姿勢が求められる。

Text by 山川 真智子