「電卓つき腕時計」ファンの心もつかめるか? カシオの特化型スマートウォッチに海外も注目

 カシオは6日、国内時計メーカーとしては初となるスマートウォッチ「WSD-F10」を正式発表した(3月下旬発売・メーカー希望小売価格7万円※税別)。本格的なアウトドアユースに対応しているのが、アップルウォッチなどの先行製品との大きな違いだ。

 カシオは、従来型の時計でも、G-SHOCKなどのアウトドアを意識した製品で一時代を築いてきた。また、アメリカを中心に、スマートウォッチへのアンチテーゼとして、80年代に流行したカシオの「電卓つき腕時計」がリバイバルブームとなっている。それだけに、「カシオのアウトドア向けスマートウォッチ」は、海外でもおおいに注目されているようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)、英ガーディアン紙、USA TODAYなどの海外主要メディアがこぞって取り上げている。

◆アウトドア派にターゲットを絞る
「WSD-F10」は、「androidwear Smart Outdoor Watch」と銘打たれ、アウトドアでの使用を明確に打ち出している。昨年就任した樫尾和宏社長は、かねてからスマートウォッチに社運を賭けると公言していた。カシオは、「目的を明確化して、本当に使える商品にすること。いろいろな機能を持っていても、いざ使おうとするとどういうところで使うか悩んでしまう。用途を特化することで、価値を明確にした」(CNET Japan)と、「アウトドア」にこだわった理由を説明している。

 特徴は、高い堅牢性だ。マイク搭載型のスマートウォッチとしては初となる5気圧防水構造と、アメリカ国防総省が規定する耐久試験MIL STANDARD 810Gに準拠した耐環境性能を持つ。また、モノクロ液晶とカラー液晶を重ねた二重構造ディスプレイにより、強い太陽光下でも高い視認性を確保。いずれも本格的なアウトドアでの使用に耐えるスペックとなっている。また、同社のアウトドアレコーダー「EX-FR100」と連携した写真・動画のリモート撮影にも対応している。

 カシオは、「WSD-F10」の使用シーンに、特に「トレッキング」「サイクリング」「フィッシング」の3つを挙げてプロモーションしている。トレッキング向けの機能としては、方位・高度・気圧の「計測機能」、日の出・日の入りなどの「通知機能」、ゴールまでの残り時間・高度、経過時間や移動速度を示す「ナビ機能」を挙げる。サイクリングでは、速度・距離・時間などの「走行データ」の表示、水分補給のタイミングなどの「リマインド機能」、「ルート表示機能」を強調。フィッシング向けの機能としては、「タイドグラフ表示」や気候変動の予測に役立つ「気圧表示」が挙げられている。

◆アップルウォッチとの違いは?
 カシオは、Apple Watchなど現行のスマートウォッチの課題は、1)用途・シーンが不明確、2)時計として実用レベルに達していない――と指摘する。「ふだん表示が真っ暗なものは、時計としてはありえないという考え方でいる。腕時計はさっと確認でき、“チラ見”で見られる文化を育んできた」と、時計メーカーならではこだわりを見せる(CNET Japan)。USA TODAY紙は「サムスン、アップル、エイスースなどのスマートウォッチやウェアラブル・ガジェットと違い、このカシオの新製品は、アウトドア派の人々のために特別に作られた」と報じている。「用途・シーンが不明確」な現行品の不備を埋めようというカシオの狙いは、はっきりと伝わっているようだ。

「腕を振らなければ時刻が見られない」アップルウォッチに対し、「WSD-F10」は、スマートフォンとの接続なしで時刻の常時表示が可能。つまり、普通のデジタル時計として使用することもできる。「WSD-F10」のバッテリーの持ち時間は、スマートフォンと連携した通常使用では他のほとんどのスマートウォッチと同等の1日だが、時計のみの場合は1ヶ月以上の連続使用が可能だという。

 樫尾社長は6日の「WSD-F10」発表後の記者会見で、「スマートウォッチ市場を活気づけた」と、パイオニアのアップル社に敬意を表しつつ、同社のアップルウォッチが最終的に成功するかどうかは疑問だとして、次のように述べた。「スマートフォンユーザーが、現行のスマートウォッチを日常的に着けたがるかどうか。それについては疑問に思う」。この発言を報じたウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、アップルウォッチについて、「まだ主流にはアピールできていないという批判がある」と記している。当のアップルのティム・クックCEOはこうした批判に対し、今後、アプリの充実と共により多くの機能が加わることを見据え、「まだチャンスを与えるべきだ」と反論している。

◆後続モデルも開発中
「WSD-F10」は、国内時計メーカーとしては初のスマートウォッチだが、スイスの各メーカーは既に市場にスマートウォッチを投入し始めている。タグホイヤー、ブライトリング、スウォッチなどの有名ブランドが、それぞれ個性あふれる製品を発表・販売中だ。中にはアウトドア向けのものもあるが、どちらかというと高級感を打ち出した製品が目立つ。

 樫尾社長は、6日の記者会見で、スマートウォッチの後続モデルも開発中だと明かした。WSJは、ビジネス向けの機種と、「Baby-G」のユーザーをターゲットにした女性向けの機種が有力だとしている。いずれにしても、ライバルの時計メーカーに対しても、ターゲットの明確化で対抗するのがカシオの戦略だと言えよう。

 一方、最新のスマートフォン市場を尻目に、アメリカなどでは、カシオの「電卓つき腕時計」にも根強いファンがいる。1980年代に流行した黎明期のデジタル・ガジェットだが、現行品も販売されている。懐古趣味に訴えると同時に若い世代にはかえって目新しいこと、価格が手頃でプレゼントにも最適だということで、米アマゾンを中心に隠れた売れ筋商品となっているようだ。アマゾンのレビューは、「スマートウォッチよりもずっとクールだ」という声で溢れている。

 満を持して発表されたカシオのスマートウォッチは、こうしたオールドファンにはどのように映るだろうか?

Text by 内村 浩介