トヨタ、“死者も出る”インド労働紛争を乗り切れるか? 工場一時閉鎖に現地メディア注目

 17日、トヨタ自動車のインド法人トヨタ・キルロスカ・モーターが、賃上げ交渉の難航に伴うスト激化により、バンガロール近郊ビダディーの2組立工場の一時閉鎖を発表した。これら工場はすでに25日間、実質的な操業停止状態にあったという。

【死人が出るインド春闘】
 印エコノミック・タイムズ紙は、インドの労使紛争は頻繁に暴発してきたと報道。グラツィアーノ・トラスミシオーニ・インド、プリコル、リージェンシー・セラミックスなどの幹部が労働者に殴り殺されたり、2012年にはマルチ・スズキのマネサール工場で人事担当幹部(インド人)が焼死していると指摘する。

 今回のトヨタ工場でも現場監督が恐喝される事態に発展しており、会社側は閉鎖に踏み切ったという。

 ただし同紙によると、会社側は具体的なトラブル内容を明かすことを拒否している。

【たった4分の1の差が埋まらない】
 印ザ・ヒンドゥー紙によると、会社側は昨年、前年と同じ、月平均4000ルピー増の組合要求に合意していたはずだった。しかしインド経済が減速し、ルピー暴落や販売不振の結果、2工場では生産能力の3分の1ほどしか使われない状態となり、約束を反故にした、という経緯のようだ。

 それでも会社側は、労働当局の勧告に従って3050ルピーを提示したが、10ヶ月にわたり、15回とも50回とも報じられている協議を重ねても、組合側は納得しなかった。

【トヨタエコドライブのすすめ】
 エコノミック紙によると、組合側は、「我々は現代(韓国ヒュンダイ)や他の自動車メーカーが労働者に支払っているより、はるかに少ない支払いしか受けていません」と主張している。会社側は、同社の給与は他の自動車メーカーと同等であって、これ以上の賃上げは地域の「トヨタ・エコシステム」全体を混乱させるとして拒絶する。

 2工場は400~500人の非組合契約社員を含め、4900~6400人の従業員を雇用していると報じられている。バンガロール近郊の、この「エコシステム」全体の労働者は15000人以上だという。

 また会社側は、積みあがる在庫を処分するために閉鎖を決定したのではないかとの観測を否定した。同社は非常に低い在庫水準を維持していて、この生産停止が少しでも継続すれば小売レベルでの需要に影響を与え始める、とのことだ。

 しかし、印タイムズ・オブ・インディア紙は、閉鎖布告に「当会計年度、当社では販売の欠如や過剰在庫によりプラント1で19日、プラント2で27日の非生産日数がありました」と書かれていることを引用している。

【トヨタの戦略に影響は】
 同布告によると、インドの自動車業界が10%ほどの縮小となっているのに対し、同社では12~13%になるという。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、どちらかというとその不振のほうに焦点を当てており、インドを将来の重要市場と考えて基盤を築いてきたトヨタ、あるいは他の自動車メーカーにとっての、先行きの困難を示唆する。

 なお現在のところ、トヨタのインド市場売上高は全世界のうち1.6%で、ただちに全体に影響するほどの規模ではないという。

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Text by NewSphere 編集部