900億は高すぎ? 楽天の「Viber」買収に、冷ややかな海外メディア

 楽天は14日、キプロスのバイバー・メディア社を9億ドル(約920億円)で買収し、子会社化すると発表した。

 バイバー・メディアは「LINE」や「Skype」のライバルに位置づけられる無料通話・メッセージサービス「Viber」(バイバー)を世界中で展開する。楽天の三木谷浩史社長は、この買収によって、既存の約2億人の顧客にViberの約3億人のユーザーを積み上げられると皮算用していると各紙は報じている。
 
【三木谷社長の狙いは楽天のグローバル化】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、楽天の収益のほとんどは日本国内からのもので、グローバル企業のAmazonやYahooよりもはるかに小規模だと指摘する。そのうえで、今回の買収の狙いは「グローバルなインターネットサービス企業へと生まれ変わるため」だとしている。

 英紙ガーディアンも、楽天が2010年以来、電子書籍のKobo(カナダ)、オンラインビデオプロバイダーのWuaki.TV(スペイン)とViki(シンガポール)など海外企業とそのインターネットサービスの買収を盛んに行っていることに触れている。同紙は今回の買収をその一環に位置づけ、「自国での人口減少と低調な個人消費に直面し、三木谷社長は楽天を世界に向けた総合サイトに再構築しようとしている」と分析する。

【急成長する新コミュニケーションツール】
 Viberは、アメリカ、オーストラリアなど193ヶ国のユーザーを抱える。ブラジル、ロシア、ベトナム、ミャンマーなど、今後の経済発展が見込まれる国々でもシェアを伸ばしているという。三木谷社長は14日に東京で開かれた記者会見をほぼすべて英語で行い、「私たちがバイバー・メディアを買収できるチャンスは今しかない。それくらい急成長している」と語った。

 楽天サイドは、世界中のViberの登録ユーザーを取り込むとともに、楽天会員同士のコミュニケーションツールの拡大にも買収のメリットを見出す。これに関して、三木谷社長は自身のワイン趣味にたとえて「ワインを買おうとしている人は、オンラインショップをブラウジングしながらViberでソムリエとメッセージ交換ができる」と、記者会見で語った(WSJ)。

【9億ドルの買収額に疑問も】
 しかし、9億ドルという巨額な買収額に対して、冷ややかな反応も見られる。

 2013年のViberの登録ユーザーは120%増の約3億人だという。これについて、ガーディアンは「アクティブユーザー数について、バイバー・メディアは固く口を閉ざしている」と、皮肉を込める。同紙はTwitterやgoogleサーチのアクティビティからみて、SkypeやWhatsAppなどのライバルに比べて、Viberの実際の利用者数はごくわずかだと分析する。

 バイバー・メディアのマルコ社長の出身地、イスラエルのハアレツ紙はさらに懐疑的だ。同紙はイスラエルのIT企業がこの1年以内に次々と10億ドルクラスの額で売れていることに触れつつ、バイバー・メディアについては「語るべき収益がない」と切り捨てる。

 同紙は、それでも楽天が9億ドルの価値をつけたのは、「バイバーのメインバンクであるゴールドマン・サックスの売り込みが成功したから」だとしている。売り手側はViberの1ユーザー当たりの価値を9ドルと試算。同業のWhatsAppの26ドル、Twitterの134ドルに比べて「バーゲンプライス」だとして、楽天を説得することに成功したというストーリーを展開した。

 買収手続きは、今年5月までに完了する。バイバー・メディア社の幹部は、フグ料理で祝福する予定だという。WSJはこのエピソードを紹介しつつ、「正しく調理されなければ、フグには危険な毒がある」と記している。

成功のコンセプト (三木谷 浩史)

Text by NewSphere 編集部