韓国地裁、金正恩氏に賠償命令 爆破で与正氏告発も 南北関係さらに悪化か

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◆制度駆使して訴訟が実現
 北朝鮮を韓国国内の法廷で裁くという離れ業は、いくつかの制度を活用することで可能となった。まず、両者は2つの独立した国家だが、韓国側の憲法は北朝鮮を韓国の一部だとみなしている。そのため、韓国国内で北朝鮮を相手取った訴訟を起こすことが可能となる。また、北朝鮮側が出廷する見込みはなかったが、韓国国内の民事訴訟においては、被告の法廷への出頭がなくとも、裁判を進行することができると定められている。

 もっとも通常であれば開廷前に、被告のもとに訴状が届いている必要がある。本件では、公示送達と呼ばれる方式によりこれを代替した。訴訟事実を裁判所のウェブページや掲示板などで公示し、2ヶ月を経た時点で書類の送達と同じ効力を持つ、と韓国のハンギョレ紙は説明している。このような制度を活用することで、北朝鮮と金委員長を相手取った訴訟が可能となった。

 今回ソウル中央地裁が示した判断は、判決として確定するものと見られる。裁判は一審に過ぎないが、法廷に出席していない北朝鮮側が控訴する見込みは薄い。また、南北情勢への影響が懸念される判決にあっては韓国政府の動きが注視されるが、実際のところ本判決に政府が意見する可能性はきわめて低いと見られている。その根拠となるのが、過去に日本の強制動員に関して起こされた賠償請求訴訟だ。韓国の中央日報紙(7月8日)は、強制動員について日本企業に対して賠償を命じる判決が下された際、文在寅政権が三権分立の観点から介入を控えたと振り返る。今回の判決に政府が関与すればダブルスタンダードとなってしまうことから、今回も政権は静観するとの見方が主流だ。

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Text by 青葉やまと