「有事モード」に入る欧州 兵役復活と国民のサバイバル準備 10代の銃器訓練も

photosoria / Shutterstock.com

 ロシアとウクライナの戦争が長引く中、欧州では自国が近い将来、戦闘当事国となる可能性を想定する国が増えている。

◆有事に備えた現金備蓄推奨
 欧州委員会は3月、欧州連合内での深刻な危機を仮定し、少なくとも3日間持ちこたえるための水や食料、医薬品のほか、現金の備蓄を勧告した。備蓄現金の額については、欧州中央銀行(ECB)が9月24日に公開した報告書で、一人当たり70~100ユーロを推奨している。

 危機的状況として想定されているのは、地政学的緊張と紛争の高まり、ハイブリッド脅威、サイバーセキュリティへの脅威、国外からの情報操作と干渉、気候変動、自然災害などだ。

◆10代からの銃器扱い講習
 ポーランドでは、9月の新学期開始以来、応急処置や護身術など「緊急事態への対応力」に重点を置くコースが設けられている。そこには、武器の扱い方も含まれる。フランス・アンフォは、ウッチの高校で10代の若者たちがライフルの講習を受ける様子を取材している。用いられるのはレプリカの武器だが、細部まで本物そっくりで、必要な動作を習得するよう繰り返し訓練を行っていたそうだ。

 ポーランドは、ウクライナの隣国であるとともに、ロシアやベラルーシとも合計600キロ以上の国境を接する国だ。歴史上、何度も侵略を経験しており、欧州の中でも危機感が高く、防衛意識も高い。

 人口約3700万人の同国が現在擁する兵士は21万2000人と、欧州最大規模だ。しかし、それでも十分ではないと考え、2035年までに兵力を30万人に増強することを目指している。(フランス・アンフォ)

◆兵役の再導入
 ロシアの脅威が迫るにつれ、一旦廃止した義務兵役の再導入を検討する国も出ている。ラトビアは2006年から廃止していた義務兵役を2023年に再導入したし、クロアチアも2008年に停止した義務兵役を2026年に復活させると10月に決議したばかりだ。また、2022年のロシアによるウクライナ侵攻より以前だが、リトアニアは、2015年に7年間停止していた義務兵役を復活させ、スウェーデンもまた7年間の停止のあと、2017年に徴兵制を復活させている。(ル・モンド紙

 ドイツは2011年に徴兵制を停止したが、現在、2026年からの志願兵制度を創設する法案を練り、来月12月には採択される見通しだ。同国の兵士数は18万1000人だが、2026年に志願兵を2万人確保することを目標としている。

 デンマーク、フィンランド、ノルウェー、エストニア、ギリシャ、キプロス、オーストリア、スイスは、以前から兵役義務を維持している国だが、その中でも変化が見られる。デンマークでは、2024年に、兵役期間が4か月から11か月に延長された。また、今年7月1日からは女性の兵役も義務化された。(20minutes紙

 また、フィンランドでは、これまで最高で60歳までとされていた予備役の年齢を65歳まで引き上げることを検討中だ。

◆3~4年後に戦争勃発の可能性?
 フランスでは、11月18日の全国市長会議においてマンドン国防参謀総長が演説を行い、「ロシアの脅威に直面するフランスは、『苦しみを受け入れ、我々の本質を守る精神力』を取り戻し、『子供たちを失うことを受け入れる覚悟』をしなければならない」と発言し、国内に論争を巻き起こした(20minutes紙)。

 マンドン国防参謀総長は10月に議会において、「フランス軍は、ロシアとの衝突という『ショック』が3~4年後に起こり得ることを想定して備えなければならない」と述べており、戦争勃発の可能性を国民に知らしめた(同)。

 奇しくも、このマンドン国防参謀総長の演説から2日後の11月20日、フランス国防国家安全保障総局(SGDSN)は、国民に向けて一種の「サバイバルガイド」をネット上で公開した。そこには、さまざまな「危機」に備え、普段から何を準備し、有事の際はどう行動するべきなのか、などが記述されている。

Text by 冠ゆき