揺らぐ日本の戦争記憶 軍国主義復活への懸念広がる
第二次世界大戦で日本軍が使用した零式艦上戦闘機|Jenny Arle / Shutterstock.com
著:Lewis Eves(エセックス大学、Lecturer in Government and International Relations)
日本の降伏によって第二次世界大戦が終結してから80年が過ぎた。しかし、日本の戦時史観は急速に変化している。その動きは、政治的な転換と重なり合い、日本の軍国主義復活の危険をはらむ結果をもたらしかねない。そうなれば、東アジア全体の政治は一層複雑化するだろう。
日本の伝統的な戦争観は、戦後占領期に起源を持つ。この時期、アメリカは日本社会の非軍事化を主導し、その一環として1947年に現行憲法が制定された。
憲法第9条は、国際紛争を解決する手段としての武力行使を放棄し、日本の軍事力を専守防衛に限定した。日本は第9条を堅持し、平和国家として歩み、外交と人道支援を重視する政策を追求してきた。
日本政府は国連の平和維持活動でさえ長らく人員派遣を拒み、1990年代にカンボジア内戦後の派遣で初めて自衛隊を送り出した。その際も、部隊は戦闘ではなく支援任務に従事した。
占領軍はまた、日本の学校向けに平和教育プログラムを整備した。この教育は戦争に関する日本の伝統的な物語の核心を形づくった。
その物語は軍国主義を否定し、第二次世界大戦を国家主義と侵略の行き過ぎへの戒めとして描いた。日本は軍国主義の社会的エリートによって誤った方向に導かれ、この戦争は国民の利益にはならなかったと説明するものだ。
◆戦争犯罪の記憶と向き合う
日本の伝統的な戦争観はまた、1937年12月から1938年1月にかけて、占領した南京市で中国市民が虐殺された事件など、日本の戦争犯罪について内省的に考えることを促してきた。こうした残虐行為は恥ずべきものとされ、伝統主義者の間でも公にはあまり語られない。
しかし、軍国主義への支持が高まると、戦争の生存者は自らが目撃した、あるいは実際に関与した残虐行為の体験を語ることがある。2007年には、日本の戦時中の残虐行為の一部への言及が教科書から削除された際、こうした事例が見られた。
著名な伝統主義者らはこれに反発し、金城重明(きんじょう・しげあき)牧師は取材に応じて軍国主義への警鐘を鳴らした。彼は、米軍兵士が女性を強姦し男性を戦車でひき殺すと日本軍に洗脳され、1945年に自らの母やきょうだいを殺害した体験を語った。
現在では、この伝統的な戦争観は、戦中や戦後直後を生きた高齢の日本人の間で最も浸透している。軍国主義を拒む歴史観を守り続け、伝統主義者は憲法第9条と日本の平和的な外交政策を支持しているのである。
修正主義的な歴史観は1950年代に現れた。それ以来、伝統的な歴史観に対抗するほどの支持を得るまでに成長した。この立場は、戦争を「西洋の帝国主義から東アジアを解放するための正義の行為」として正当化しようとする。
同時に、この歴史観は戦争が誤ったものであったことも説明する。提唱者は、日本が近隣諸国を攻撃し支配したのは、西洋型の帝国主義を単に模倣したにすぎないと主張する。
西洋が日本を堕落させたとする非難は、修正主義的な歴史観よりも前から存在した。その一例は、1946年から1948年にかけて行われた東京裁判にも見られる。陸軍の戦時指導者だった石原莞爾は、日本は西洋に開国を強いられ、西洋列強のように振る舞わざるを得なかったと主張した。
石原は「日本が門戸を開き、諸外国と交わろうとしたとき、相手は皆、恐るべき好戦的な国々であることを知った。そこで自国を守るために、われわれはあなたがたの国を師とし、好戦的であることを学ぼうとした。言ってみれば、われわれはあなたがたの弟子になったのだ」と裁判で述べた。
この視点は、修正主義的な歴史観において、日本人を戦争の第一の被害者と位置づける根拠となっている。本来は平和的で善意に満ちた国民が、西洋の模倣という誤りを犯した結果、広島と長崎への原爆投下という苦難を受ける戦争に巻き込まれた、という筋立てである。
軍国主義を断罪しないがゆえに、修正主義的な歴史観は日本の再軍備を容認する。そのため修正主義者は第9条に反対し、日本が軍事力を回復することを主張する傾向にある。
◆なぜ重要なのか
歴史観は変化する。日本がどの歴史観を重視するかは国民の裁量に委ねられており、いずれも日本の複雑な戦時史の一端をとらえているのだろう。懸念されるのは、日本の戦争記憶のあり方が現在変わりつつあり、それが軍国主義への逆行につながりかねない点である。
日本は7月に参議院選挙を実施した。右派ポピュリスト政党である参政党は比例区の得票率で12%超を獲得し、2022年の3.33%から大きく伸ばした。参政党は超国家主義的かつ修正主義的な政党で、日本の帝国時代を美化し、第9条の撤廃を公約に掲げている。
ほかの修正主義政党とともに、参政党は若年層から大きな支持を得ている。いまの日本の若者は高齢世代に比べて修正主義的なメディアに触れる機会が多く、若い有権者の間でこの歴史観が浸透していることを示している。
日本の近隣諸国は、参政党やほかの修正主義政党を警戒している。戦時中の日本の侵攻によって2千万人以上を失った中国は、第9条改正の動きを強く非難している。過去に第9条を改正しようとしたり、より強硬な外交政策を追求したりする動きがあった際には、中国各地の都市で大規模な反日デモが起きてきた。
東アジアにはすでに多数の火種が存在する。台湾に対する中国の軍事行動の可能性、北朝鮮の軍事的示威、そして地域におけるロシアの影響力拡大などがそれである。
そこに、過去の帝国主義的な侵略行為に縛られない再軍備した日本が加われば、事態は一層複雑化するに違いない。
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom
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