もがみ型、豪海軍の窮地救うか 豪側の期待と不安
もがみ型護衛艦|出典:海上自衛隊ホームページ
オーストラリアが導入を計画する新型フリゲート艦に、日本の「もがみ型」が採用された。11隻を建造する計画は、日本にとって過去最大の防衛装備品輸出となる見通しだ。艦艇不足に悩む豪海軍は即戦力としての活躍に期待を寄せるが、採用されたのはまだ存在しない改良型。さらに、輸出経験の浅さや現地建造の遅延リスクも指摘されており、前途は平坦ではない。
◆早急に必要……豪海軍の切実な事情
学術系ニュースサイト『カンバセーション』に寄稿したニューサウスウェールズ大学のジェニファー・パーカー氏は、もがみ型の選定は近年の日豪関係強化の成果であり、苦境にある豪海軍の能力向上にも大きな意味があったと指摘する。
豪政府は2040年代までに少なくとも20隻の水上戦闘艦を運用する計画だが、現在は10隻しかなく、来年には9隻に減る見通しだ。2009年の時点で、アンザック級フリゲートの後継艦が必要と認識されていたが、新型艦について決定を下したのは2018年で、英BAEが設計・建造するハンター級フリゲートの採用が決まった。最初のハンター級の運用開始は2034年だが、2019年に過酷な使用によるアンザック級の劣化が判明。計画を見直し、ハンター級の調達数を9隻から6隻に減らして新たな多目的フリゲート(今回のもがみ型)導入に踏み切った。
パット・コンロイ豪国防産業相によれば、日本は納入を早めるため、既存の生産ラインに3枠を確保したという。今後10年間でまず日本から3隻を購入し、その後西オーストラリア州で8隻を建造する。日本からの1隻目は2029年に到着し、2030年に就役予定。残り2隻も2034年までに引き渡される計画だ。(オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー誌)
もがみ型は日本の防衛産業の最先端システムを搭載し、乗員は従来型の半数程度の90人で済む点も評価された。さらに運用寿命が他社より長いことも決め手となった。総合的に見て、豪国防軍の能力要件と戦略的ニーズを迅速に満たす最適な艦とされた。
◆技術は申し分なし 壁は海外経験の乏しさ
豪メディアはおおむねもがみ型を歓迎しているが、課題もある。防衛省は今後、能力を向上させた新型もがみ型を海上自衛隊に配備する計画で、これをベースに豪向けの新型フリゲートを開発する方針だ。つまり豪が発注する艦は、まだ世にない未完成のモデルということになる。これがリスクとされる一方、日本の造船実績を踏まえれば、そのリスクは低いとパーカー氏は見ている。
また、日本の防衛産業は海外輸出や現地生産の経験が乏しい点も懸念されている。防衛関連サイト『ブレイキング・ディフェンス』によれば、シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究大学院のコリン・コー氏は、日本が先進的な造船技術を持つのは明らかだが、海自向け以外の実績がないと指摘。輸出案件の経験不足がプロジェクトの足かせになりかねないとしている。
◆過去にも遅延… 豪での建造に不安
豪側にも課題はある。防衛関連サイト『ディフェンス・ニュース』によると、オーストラリアの造船業者はスケジュール順守の実績が乏しく、既存の造船プログラムもすでに大幅に遅れている。このため、日本が国内で3隻以上を建造する可能性が早くもささやかれているという。
さらに、オーストラリアは造船において歴史的に要求が厳しい顧客でもある。同サイトは、これまでにもフランスやドイツの造船業者を困らせてきたと指摘。パーカー氏も、もがみ型の場合もトラブルが起きれば、国家間の関係に影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らしている。
豪政府は現在、三菱重工との最終交渉を進めており、年内の契約締結を目指している。




