餓死か銃殺か すがるガザの人々が向かう「死の罠」

ガザ南部ハンユニスのGHF配給拠点付近(6月26日)|Abdel Kareem Hana / AP Photo

 アメリカとイスラエルが支援する「ガザ人道財団」(GHF)の配給所周辺で、5月下旬以降、900人近いパレスチナ人が命を落とした。国連は、食料を求めて集まった民間人に対する銃撃が頻発していると報告しており、援助をめぐる混乱は日々深刻さを増している。

◆命がけで向かう配給所
 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は15日、5月27日から7月13日までの間に、支援を求める人々875人が殺害され、そのうち674人がGHFの拠点周辺で命を落としたと発表した。多くの犠牲者は、指定された待機エリアで配給開始を待つ間にイスラエル軍の銃撃を受けたとされる。OHCHRのラヴィナ・シャムダサニ報道官は、「負傷者の大半は銃による傷を負っている」と述べている

 英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)には、ガザ南部の海岸沿いにあるアル・マワシに家族と共に避難している理髪師、ハッサン・アブダラ氏の声が紹介された。彼は、配給所を「死の罠」と表現し、日々の危険と隣り合わせの現実を語っている。

◆「血と内臓が飛び散った」――援助現場の惨状
 26歳の医療技術者ジハード氏は、FTに壮絶な体験を語っている。彼は南部ガザを5度往復し、イスラエル軍の戦車や兵士、上空を飛ぶドローンをかいくぐってGHFの援助配布拠点へ向かったが、いずれも支援物資を受け取ることはできず、手ぶらで帰るしかなかったという。

 特に衝撃的だったのは、南部ハンユニスの拠点へ向かう途中の出来事だ。ジハード氏の隣を歩いていた男性が突然撃たれ、「彼の血と内臓が私の全身に飛び散った」と語る。あまりの光景に、「そこで起きていることは想像をはるかに超えていた」と述べ、二度と現地には行かないと決めたという。

 一方、AP通信は、アメリカ企業に雇われた、援助配布拠点の警備スタッフ2人(匿名)の証言として、衝撃的な内容を報じている。それによると、現地ではほぼすべての配給の場面で、脅威がなくても警備スタッフが食料を求めて押し寄せるパレスチナ人に対し、銃弾、スタングレネード(閃光手榴弾)などを使用していたという。

◆「餓死するか、撃たれるか」
 こうしたガザの現状について、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は11日、X(旧ツイッター)で厳しく非難。「我々の目の前で、ガザは子供たちと飢えた人々の墓場になった。ガザの人々には逃げ場がなく、選べるのは餓死するか撃たれるかという、2つの死だけだ」と投稿した。

 イスラエルによるガザへの人道支援の受け入れ制限について、国連事務総長の報道官、ステファン・デュジャリック氏は「こうした(支援の)拒否は、命に関わる深刻な問題だ」と警告。「ガザでは子供たちが苦しみの中で命を落とし、わずかに許可された支援を求めて人々が撃たれている」と述べ、強い言葉で非難した。

◆ラファに「人道都市」構想、批判も
 アルジャジーラは、イスラエル政府がガザ南部ラファの廃墟となった地域に「人道都市」の建設を計画していると報じる。イスラエルのカッツ国防相は記者団に対し、この区域に最終的にはガザ全人口の210万人を収容する予定だと語った。

 中東問題の専門家ダニエル・レヴィ氏は、南部に設置された3つのGHF援助拠点が、パレスチナ人をラファ方面に誘導する布石だと指摘。そのうえで、「我々は第二のナクバを目撃しているようだ」と述べ、1948年のパレスチナ人大量追放(ナクバ)が再び起きる可能性があると警鐘を鳴らしている。(同)

Text by 青葉やまと