イスラエル、イラン核開発の「頭脳」14人の科学者を殺害

ゾルファガール中央司令部で会議するイラン軍幹部(23日)|Iranian Army Press Service via AP

 イスラエルによるイラン攻撃で、少なくとも14人の科学者の標的殺害があることが明らかになった。これはイランの核開発の「頭脳」を狙った前例のない攻撃であり、外部の専門家は「計画は後退するが、完全には止められない」と見ている。

 駐仏イスラエル大使のジョシュア・ザルカ氏はAP通信の取材に、「核インフラや物質が残っていたとしても、それを使って兵器を作るのは『ほぼ不可能』になるだろう」と述べた。また、「グループ全体が姿を消したことで、核計画はかなりの年数ぶん後退する」とも語った。

 ただし核問題の専門家は、イランには代わりとなる科学者がいるため、開発の再開は可能だと指摘している。欧州諸国も、軍事力だけでは核の知識そのものを消し去ることはできないとして、外交による解決を求めている。イギリスのデービッド・ラミー外相は「イランが数十年かけて得た知識や、それを兵器開発に転用しようとする政権の意図は、空爆では消せない」と述べた。

 イランは一貫して「核開発は平和目的」と主張しており、アメリカの情報機関も「現在、核兵器開発を積極的に進めているわけではない」と評価している。しかしイスラエルは、「イランは短期間で核兵器を組み立てる能力がある」と警戒している。

◆殺害された化学者・物理学者・技術者
 ザルカ大使によれば、イスラエルの攻撃により、物理学者や核技術者ら少なくとも14人が死亡した。14人はイランの最高の科学者で、「基本的にすべての情報を把握していた」という。大使は、「物理学を知っていたからではなく、実際に核兵器の設計・製造・生産に携わっていたから殺害された」と述べた。

 イスラエル軍によると、6月13日の最初の攻撃で9人が死亡し、彼らはいずれも核兵器開発に数十年の経験を持つ化学、素材、爆薬、物理の専門家だったという。

 さらに、イラン国営テレビはその後、モハマド・レザ・セディギ・サーベル氏が空爆で死亡したと報じた。彼は13日の攻撃で17歳の息子を失い、自身も負傷していた。

◆後継者への「抑止」が狙い
 専門家は、イランがこれまでに蓄積してきた核の知見と設計図、そして訓練を受けた科学者たちにより、計画が再開される可能性は十分にあると警告している。

 アメリカの元外交官で、現在はロンドンの国際戦略研究所(IISS)に所属するマーク・フィッツパトリック氏は、「設計図は残っている。次の世代の博士課程の学生がそれを再構築することも可能だ」と述べた。また、「施設を爆破したり、科学者を殺すことで遅延は生まれるが、両方をやっても再建はされるだろう」とした。さらに、「次の層にいる後継者はやや能力が劣るかもしれないが、やがて任務を果たすだろう」と語った。

 復旧の速さは、攻撃によって濃縮ウランや精製装置などの核物質と機材がどれほど破壊されたかに左右される。ロシアの核兵器に詳しいジュネーブの専門家パーヴェル・ポドヴィグ氏は、「鍵は物質そのもの。物質さえあれば、それを兵器にする方法は十分に知られている」と話す。また、「今回の殺害は、人々を恐れさせて今後の協力者を遠ざける狙いもあったのではないか」と指摘し、「だが、物理を学ぶ学生まで標的にするのか? それは非常に危険な坂道だ」と警告した。

 ザルカ大使は、「将来イランで核兵器計画への参加を求められた者たちは、二度考えるようになるだろう」と語った。

◆過去の科学者殺害
 イスラエルはこれまでもイランの核科学者の殺害に関与したとみられてきたが、今回のように明言するのは異例である。

 2020年には、イランが核開発の第一人者と見なしていたモフセン・ファフリザデ氏が遠隔操作の銃で殺害された。イランはこれをイスラエルによる犯行だと非難した。

 パリの戦略研究財団(FRS)に所属する分析官ロヴァ・リネル氏は、「この種の殺害で計画は一時的に遅れるが、完全には止まらない。戦略的というより象徴的な意味合いが強い」と述べた。

 ザルカ大使はファフリザデ氏の件に言及しなかったが、「もしこうした妨害がなければ、イランはとっくに核兵器を完成させていただろう。いずれの事故や事件も、計画を少しずつ後退させてきた」と語った。

◆法的にはグレーゾーン
 国際人道法では民間人や非戦闘員の意図的な殺害を禁じている。ただし、今回のようなケースで標的がイラン軍の一部であったり、敵対行動に直接関与していた場合は、その限りではない可能性もある。

 米ジョンズ・ホプキンス大学の政治学教授スティーブン・R・デービッド氏は、「彼らはイスラエルの消滅を唱えるならず者政権のもとで核兵器開発に関与していた。ゆえに正当な標的である」と述べた。彼はさらに、「もし第二次世界大戦中にナチス・ドイツや日本が、連合国のマンハッタン計画に関わる科学者を狙っていたとしても、それは当然だっただろう」とも語った。

 一方、エモリー大学の国際人道法専門家ローリー・ブランク氏は、「イスラエルの今回の作戦が合法だったかどうかは現時点では判断できない」と述べ、「科学者たちの具体的な役割や活動、イスラエルが有していた情報など、外部の我々には不明な点が多すぎるため、明確な結論は出せない」とした。

 ザルカ大使は、「物理を学び、原子核やウランについて知っているだけなら別だが、それを実際に核弾頭に変え、ミサイルに搭載する技術を開発していた人々だった。だからこそ、排除されたのだ」と述べた。

By JOHN LEICESTER

Text by AP