見逃されるイスラエルの核 「あいまい戦略」と西側のダブルスタンダード
イスラエルのテレビ局チャンネル10が「ディモナの核施設」だと主張する建物|Channel 10 via AP
イスラエルは、宿敵イランによる秘密裏の核兵器開発が国家の存続を脅かすとして、イランの核計画を破壊する決意を示している。
一方で、あまり秘密でないのが、数十年来、中東で核兵器を保有していると広く信じられている唯一の国がイスラエルだということだ。もっとも、イスラエルの指導者たちはその存在を肯定も否定もしてこなかった。
専門家によれば、この「あいまい戦略」によって、イスラエルはイランやほかの敵対勢力に対する抑止力を強化しつつ、地域での核軍拡競争を引き起こしたり、先制攻撃の標的になることを避けてきた。
イスラエルは、核不拡散条約(NPT)に加盟していない5か国の一つであり、そのため核兵器の廃棄や施設への査察を求められる国際的な圧力からも免れている。
それに異を唱えるイランなどは、西側諸国がイランの核開発に厳しい目を向ける一方で、イスラエルが保有しているとされる核兵器には見て見ぬふりをしているとして、偽善だと非難している。イランは自国の核開発はあくまで平和目的だと主張している。
こうしたなか、アメリカ軍は22日、イラン国内の3つの核関連施設を空爆。イスラエルの核計画破壊の取り組みに事実上加わる形となった。
イスラエルの核開発計画について詳しく見ていこう。
◆あいまい戦略の歴史
イスラエルは1958年、初代首相ダヴィド・ベングリオンのもと、南部の砂漠地帯ディモナにネゲブ原子力研究センターを設立した。ベングリオンは、周囲を敵国に囲まれた小国イスラエルにとって、核抑止力が安全保障上の最後の手段として必要だと考えていた。ある歴史家たちは、それが「最終手段」としてのみ使われる想定だったとしている。
開設後、イスラエルは10年間にわたりこの施設の存在を隠し、アメリカ当局に対しては「繊維工場」だと説明していたという。これは2022年に学術誌「原子力科学者会報」に掲載された論文で指摘されている。
この論文によれば、ディモナで生産されたプルトニウムを用いて、イスラエルは1970年代初頭にはすでに核弾頭の発射能力を持っていたという。著者は、米国科学者連盟のハンス・M・クリステンセン氏とマット・コルダ氏。
1986年、元技術者のモルデハイ・ヴァヌヌ氏が英紙サンデー・タイムズに原子炉の写真や情報を提供したことで、ディモナの秘密は暴露された。ヴァヌヌ氏は国家反逆罪で18年間投獄され、現在も外国人との接触や国外渡航を禁じられている。
◆核弾頭は数十発規模か
専門家は、イスラエルの保有する核弾頭は80発から200発と推定しており、その範囲の下限に近い可能性が高いと見ている。
また、イスラエルは最大で1110キロのプルトニウムを保有しており、最大277発の核兵器を製造可能な量に相当すると、国際安全保障団体「核脅威イニシアチブ(NTI)」は推定している。イスラエルには核巡航ミサイルを搭載可能とされる潜水艦が6隻あり、最大6500キロ先にまで核弾頭を運ぶことができる弾道ミサイルも保有しているとされる。
これらの潜水艦はすべてドイツ製で、北部都市ハイファに配備されている。
◆中東の核兵器拡散は極めて危険
エルサレム・ヘブライ大学のオル・ラビノウィッツ准教授(スタンフォード大学客員教授)は、中東のように紛争が多発し、政情不安が続き、同盟関係も流動的な地域では、核兵器の拡散はとりわけリスクが高いと述べる。「核兵器を持つ国家が戦争状態にあると、世界中が注視します。なぜなら、核兵器の使用を判断する立場にある者がいるという事実そのものが、非常に危険だからです」
イスラエルの軍幹部が、たとえば大量破壊兵器による攻撃など、極めて深刻な脅威に直面した場合には、核兵器の使用を検討する可能性もあるという。
なお、イスラエル以外で核不拡散条約に署名していない国は、インド、パキスタン、南スーダンの3か国。北朝鮮は署名後に脱退している。イランは署名国だが、今月初め、国際原子力機関(IAEA)から義務違反を理由に非難決議を受けており、その翌日にイスラエルの攻撃が行われた。
国連の核兵器禁止キャンペーン(ICAN)のスージー・スナイダー氏は、イスラエルのあいまい政策が、より厳しい国際的な監視を逃れる手段になっていると指摘する。また、イスラエルに対する対応の甘さは、西側諸国が中東の核拡散に歯止めをかけることに失敗している証拠でもあると語る。「彼ら(西側諸国)は、自分たちがその一端を担ってきたという事実を、思い出したくないのです」
By By SAM MEDNICK