「モサド作戦の集大成」イスラエル電撃攻撃はいかに実現したのか?

13日、イラン・テヘランでの爆発後、煙が立ち上る|Vahid Salemi / AP Photo

 イスラエルは先週、長年にわたり準備してきた諜報および軍事作戦を実行し、イランの中枢を正確に打撃。イランに衝撃を与え、戦力を大きく削いだ。

 スパイと人工知能(AI)による誘導のもと、イスラエル軍は夜間、戦闘機と武装ドローンをイラン国内に潜入させ、多くの防空システムとミサイル装備を即座に無力化。それによりイラン上空の制空権を確保したイスラエルは、主要な核施設を空爆し、将軍や科学者を殺害した。イランが数時間後に反撃体制を整えたときには、すでに能力は著しく損なわれていた。

 本記事は、匿名を条件に極秘作戦について語ったイスラエルの現・元情報・軍関係者10人との会話に基づいている。一部の主張は独立して検証できなかったが、モサド(イスラエルの諜報機関)の元研究部長であるシマ・シャイン氏は、自身が作戦の計画と実行に関する内部情報を有しているとし、攻撃の全体像を確認した。

 「今回の攻撃は、モサドが何年もかけてイランの核計画を標的に準備してきた作戦の集大成です」と、現在は国家安全保障研究所の分析官を務めるシャイン氏は語った。

 イスラエルの奇襲効果は、イラン側が「イスラエルは核交渉中に攻撃はしないだろう」と高をくくっていたことでさらに高まった。

 第6回目の核協議はオマーンで15日に予定されていたが、イスラエルのネタニヤフ首相はその直前の13日、「ライジング・ライオン作戦」を発動。事前にアメリカのトランプ大統領に通知していたという。

 ネタニヤフ首相は以前から「イランの核計画の無力化はイスラエルの安全保障上、極めて重要だ」と主張しており、すでにウラン濃縮能力に対する妨害を行っていたが、外交的圧力や国連監視団の警告にもかかわらずイランの計画が進展していたため、より攻撃的な手段が必要と判断した。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、繰り返し「イスラエルの滅亡」を唱えてきた。イラン政府は核計画は平和目的だと主張しているが、核兵器を保有していない国のなかで唯一、兵器級(90%)に近い60%までウランを濃縮している。

◆ドローンの密輸と奇襲準備
 ある元情報将校によれば、モサドと軍は少なくとも3年前から今回の作戦の準備を進めていた。この人物も匿名を条件に語っている。

 昨年10月に実施された一連の空爆から得られた知見が基盤になっており、「イランの防空の脆弱さが明らかになった」と国際危機グループのイラン専門家ナイサン・ラファティ氏は語る。

 今回の作戦初動でイランの防空・ミサイルシステムをさらに無力化するため、モサドの工作員は精密兵器をイラン国内に密輸し、短距離から攻撃できるよう事前に配置していたという。これらには小型の武装ドローンも含まれており、車両に積まれて運び込まれたとされる。

 シャイン氏によると、モサドはイランの地対空ミサイル施設の近くにこれらの武器を配置しており、現地の協力者とイスラエル人の混合チームによって運用されていた。

◆AIと人的情報による標的選定
 標的の選定には最先端のAI技術が使われていた。関係者の一人は、イスラエルが膨大な情報を迅速に解析するためにAIを活用し、昨年10月からこの取り組みが始まっていたと述べている。

 AP通信の今年初めの調査では、イスラエル軍がアメリカ製のAIモデルを使用し、情報収集や通信傍受に活用していることが明らかになった。これはガザでの対ハマス戦、レバノンでの対ヒズボラ戦にも用いられている。

 選定担当の将校によると、標的は「指導部」「軍事」「民間」「インフラ」などのカテゴリーに分類され、革命防衛隊に深く関与していると判断された人物が優先的に標的となった。

 この将校は、将軍たちの勤務先や私生活に関する詳細なリストを作成する任務を担っていた。

 6月14日の攻撃以降、革命防衛隊の司令官ホセイン・サラミ将軍や、イラン軍参謀総長モハンマド・バゲリ将軍など、複数の高官が死亡している。

 さらに、モサドはスパイ網を使って核科学者や革命防衛隊員を特定し、地下施設への攻撃でミサイル計画責任者を含む少なくとも8人の隊員を殺害した。

◆イランの車両も標的に
 作戦の一部には、ミサイル輸送・発射用のイランの車両を狙うことも含まれていた。

 シャイン氏によれば、これは今月初めにウクライナがロシアで行った作戦と類似している。ウクライナ当局によると、安価なドローンをロシア領内に潜入させ、モスクワの戦略爆撃機の約3分の1を破壊または損傷させたという。

 イランの国営テレビのインタビューで、警察長官アフマドレザ・ラダン将軍は「小型ドローンや戦術ドローンを積んだ複数の車両が発見された」と述べ、「一部の裏切り者が国の防空網をかく乱しようとしている」と付け加えた。

◆攻撃の起源はどこまで遡るのか
 モサドは長年にわたり、サイバー攻撃や科学者暗殺など、イランの核開発を妨害する秘密作戦を行ってきたとされるが、公にはあまり認めていない。

 2000年代には、イスラエルとアメリカによって開発されたとされるコンピューターウイルス「スタックスネット」により、ウラン濃縮用の遠心分離機が破壊された。

 2018年には、イスラエルがイランの核研究の記録が保管されていた機密文書を盗み出し、数万ページに及ぶ資料を持ち帰ったと、元軍情報研究者で現在はエルサレム戦略安全保障研究所を率いるヨッシ・クパーワッサー氏が明かしている。

 2024年7月には、イスラエルがテヘランの政府用宿泊施設の寝室で爆弾を使用し、ハマス幹部イスマイル・ハニヤ氏を暗殺した。

 イスラエルの退役准将で安全保障シンクタンク「イスラエル防衛安全保障フォーラム」代表のアミール・アビビ氏は、今回の作戦について「これは突如発生した攻撃ではない。長年にわたりイスラエルの諜報機関がイラン国内で活動を広げ、強固な拠点を築いてきた結果だ」と述べている。

By JULIA FRANKEL and SAM MEDNICK

Text by AP