イランの取りうる報復手段は? イスラエル空爆激化のなかで
イラン・テヘランでイスラエルの攻撃を受けた後、イラン国営テレビの建物から煙が立ち上る(16日)|AP Photo
イスラエルがイランの軍事施設および核関連施設を標的に空爆を行っているなか、イランの当局者らは、報復のミサイル攻撃以外に取り得るさまざまな措置を提案している。
これらの提案は、過去数十年にわたりイランがイスラエルまたはアメリカと対立した際に提示してきたものと似通っている。それには、ホルムズ海峡での海上輸送の妨害、核拡散防止条約(NPT)からの脱退、同盟を結ぶ武装勢力による攻撃などが含まれる。
本稿では、それぞれの選択肢がイランおよび中東全体にとってどのような意味を持つのか考察する。
◆ホルムズ海峡を標的に
ホルムズ海峡はペルシャ湾の狭い出口であり、世界の原油取引の約20%がこの海峡を通過している。
海峡はイランとオマーンの領海内にあり、最も狭い地点では幅33キロしかない。航行可能な航路の幅は片道わずか3キロにすぎない。この海峡に何らかの影響が及べば、世界のエネルギー市場に波紋を広げ、原油価格を押し上げる可能性がある。そしてそれは、ガソリンや石油製品の価格として消費者にも影響を与える。
トランプ米大統領が2015年のイラン核合意から一方的に離脱し、イランに厳しい制裁を再課したのを受けて、2019年以降、イランによるとされる船舶への攻撃が相次いでいる。
アメリカ軍は、時にイランの革命防衛隊との緊張をはらんだ接触をしつつも、この海峡を定期的に航行している。バーレーンに拠点を置くアメリカ海軍第5艦隊が行うこれらの作戦は、「航行の自由」ミッションとして知られ、水路を商業航行に開かれた状態に保つことを目的としている。一方イランは、これらの航行を自国の主権に対する挑戦と見なしており、それはあたかもイランがアメリカの沿岸で軍事活動を行うかのようだと捉えている。
イスラエルの攻撃が始まって以来、イラン当局者は海峡封鎖の可能性にたびたび言及しており、これはアメリカの即時介入を招く可能性が高い。
◆核拡散防止条約からの脱退
専門家らは、イスラエルの攻撃を受けたイランが、国際原子力機関(IAEA)との協力を完全に断ち、NPTを脱退し、核兵器の開発に突き進む可能性を懸念している。
NPT加盟国であるイランは、申告された施設以外での放射性物質の痕跡について説明する義務があり、それが核兵器開発に使われていないことを保証しなければならない。イランは自国の核開発はあくまで平和目的だと主張しているが、核兵器を保有していない国の中で唯一、濃縮度60%のウランを製造しており、これは核兵器級(90%以上)に極めて近い技術的段階である。アメリカの情報機関およびIAEAの見解では、イランは2003年以降、組織的な軍事用核計画は行っていないとされる。
ただし、懸念には前例もある。北朝鮮は2003年にNPTからの脱退を宣言し、2006年に核実験を行っている。
しかし、仮にイランが条約を脱退した場合、アメリカを本格的な戦闘に巻き込む可能性があり、イランとしては現時点ではそれを避けたいと考えている。
◆武装勢力による非対称攻撃
イランは、ユダヤ人観光客、シナゴーグ、あるいはイスラエルの外交施設を標的とする非対称攻撃を、過去に行ってきたように、再び促す可能性がある。ただし、これらの勢力にとって近年は困難な時期が続いている。
イランの同盟勢力である、いわゆる「抵抗の枢軸(Axis of Resistance)」は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃以降、イスラエルによる継続的な攻撃により大きな損害を受けている。特にレバノンのヒズボラとガザ地区のハマスが打撃を受けている。イランはこれらの勢力を、対イスラエル戦略における非対称的な攻撃手段、および直接攻撃からの防波堤として長年利用してきた。
一方で、イランの支援を受けたイラクの武装勢力は今のところ行動を起こしておらず、現時点でイスラエルに対する攻撃を行っている「枢軸」勢力は、イエメンのフーシ派だけとなっている。
By JON GAMBRELL