「日本に対抗手段はない」“相互関税”への苦しい立場、米メディア指摘
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トランプ大統領による日本に対する24%の関税措置に関し米紙は、日本政府が取れる選択肢が限られていると指摘する。インフレに苦しむ経済状況と安全保障上の制約が、対抗策を困難にしているという。
◆融和的戦略を追求する日本政府
トランプ大統領は1月から日本への関税をちらつかせていたが、石破首相はこれまで協調路線を貫いてきた。2月の日米首脳会談では、アメリカ向けの投資を1兆ドル(約146兆円)規模に拡大する方針を打ち出した。
トランプ大統領の関税発表直前まで、日本の企業幹部らは日本が関税対象から外れるのではないかと期待を寄せていた。しかし、日本からの輸入品に24%の関税をかけると発表されたことで、こうした期待は水泡に帰した。
トランプ大統領が24%の「相互関税」を日本課すと表明したことについて、石破首相はこの措置を「極めて残念であり不本意」で一方的だと批判し、「世界経済に大きな影響を及ぼす」と強調した。
◆日本の報復関税は「自滅的」
ただし、日本政府はアメリカの関税措置に対する対抗手段を打ち出していない。ワシントン・ポスト紙は、「専門家は、日本には報復する手段がほとんどなく、報復関税を課すのは困難だろうとみている」と伝える。
ニューヨーク・タイムズ紙は、背景には日本の経済事情とアメリカとの貿易関係があると指摘する。ここ数年間、日本は物価高に悩まされている。特にエネルギーや食料品の価格高騰が主因となり、日本経済を圧迫している状況だ。日本がアメリカから購入する品目の大半は天然ガスや農作物といった基礎物資であり、こうした品目への追加関税は、日本自身の首を絞めることにつながりかねない。
ムーディーズ・アナリティクス(東京)のシニアエコノミスト、ステファン・アングリック氏は同紙に対し、「アメリカからの輸入品に対抗関税を設けることは『自己破壊的』であり『現実的な選択肢にならない』」と断言。
また、CNNは、日本は安全保障におけるアメリカのへの依存度の高さから、身動きが取れない状態にあるとの見方を伝える。神田外国語大学の講師ジェフリー・ホール氏は同局のインタビューで「日本が抱える最大の制約は、中国と北朝鮮に隣接し、安全保障をアメリカに大きく依存している地政学的な状況だ」と解説。世界貿易機関(WTO)に苦情を申し立てれば、直接の対立を避けることができるかもしれないが、「現実的な観点からすると、日本の指導者にとってアメリカと直接対決することは不可能」と語る。
◆アメリカ依存からの脱却も視野に
トランプの関税政策を受け、日本がアメリカへの依存を減らし、他国との関係強化へと舵を切る可能性がある。ワシントン・ポスト紙によると、元貿易交渉官の羽生田慶介氏は、日本が中国を含む他国との貿易拡大へと動く可能性があると指摘した。
「日本は安全保障面でアメリカに大きく頼っている」と羽生田氏は話す。「しかし、日本がトランプの姿勢に不信感を抱き始めれば、状況は一変するだろう」
追加関税施策を次々と打ち出すトランプ氏に世界が対抗措置を取り始めているなか、日本の対応が注目される。