メルツ氏「英仏と核共有を話し合う」 米に頼れないドイツの選択肢は?
キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首|Ebrahim Noroozi / AP Photo
ドイツの次期首相就任が有力なキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首が、核兵器の共有について、フランス、イギリスと協議したいと発言した。あくまでもアメリカの「核の傘」を補完する観点からだとしているが、アメリカへの信頼が低下する今、ドイツは自前の核を持つべきだという意見も各所から出ている。
◆アメリカへの不信感 揺らぐ安全保障
EUのニュースと政策を伝える『ユーラクティブ』は、欧州の指導者たちがトランプ大統領の虚言を無視し、恥をかきつつも忠誠を誓ってきたのは、アメリカの核の傘の下にあったからだとする。
しかし、アメリカはその外交政策を根本的に変えようとしている。トランプ大統領は米ロ関係の再編を示唆し、ウクライナのゼレンスキー大統領と衝突。それを見た欧州の政策立案者たちは、何十年もの間、安全保障の基盤として機能してきた核の盾に、まだ頼ることができるのかと疑問を抱く。
その一人であるメルツ氏は、ロイターによると、9日のラジオ番組のインタビューで「核兵器の共有は我々が話し合うべき問題だ。我々は核抑止力においてともに強くならなければいけない」と述べた。ただし、アメリカの核の傘を維持することは望んでおり、その補完という観点から英仏と協議したいとしている。ちなみに、ドイツは先の大戦の教訓から多くの国際条約で非核防衛を自らに課しているが、北大西洋条約機構(NATO)の武器共有協定には参加している。
◆核共有でもジレンマ 核武装はあるのか?
ユーラクティブによれば、現在欧州で核兵器を持っているのは英仏だけだが、イギリスの核はアメリカの技術と協力に依存しており、フランスが独立した代替案構築の唯一の選択肢となっている。マクロン仏大統領は、核抑止力を欧州のほかの地域にも拡大する可能性があることを最近示唆している。
パリを拠点とするデジタルメディア『ワールドクランチ』に寄稿した国際戦略研究所のリサーチ・フェロー、ファビアン・ヒンツ氏は、英仏がドイツにその核抑止力拡大を約束する可能性はあると述べる。それと引き換えに、フランスの核兵器搭載航空機のドイツ常駐や、ドイツによるフランスの核兵器への財政的貢献といった取り決めが行われる可能性もあるとしている。
しかし根本的な疑問は、このような安全保障が有事の際にどの程度信頼できるかだとヒンツ氏は指摘。存亡にかかわる事態に関する認識が独仏で一致しない場合も考えられるうえ、そもそもアメリカが信頼できないパートナーだからといって、英仏に長期的安定を依存できるのかというより深い矛盾が浮かび上がるとする。
その結果、ドイツ自体が核保有国になり戦略的自立を獲得するという答えが浮上する。ユーラクティブは、ロシアを念頭に置いた欧州の主要国の選択は、核武装するか滅びるかの二択だと主張し、ドイツは「厳しい現実政治」で対応するしかないとする。
一方ヒンツ氏は、ドイツが核武装するには、戦後秩序の形成に最も成功を収めたとされる核拡散防止条約(NPT)下での約束を破る、またはNPTを脱退することになると指摘。国際秩序の擁護者としてのドイツのイメージに相反し、長期的には自国の安全保障をも危うくしかねないとしている。
◆静かな保険? 最良の選択肢とは
ヒンツ氏は、第3の選択肢として、必要とされた場合に核兵器を製造できる技術力を構築する核ヘッジを上げる。ドイツはすでに高度に専門化された中性子研究から精密な金属工学に至るまで、広範な主要技術と専門知識を保有しているため、早期の核ヘッジは可能という見方だ。
ドイツにとって核武装は戦略的にリスクが高く、政治的に実行が難しい。対照的に、核ヘッジは静かな保険として機能する可能性があり、ドイツはこのオプションを検討すべきだとしている。