米ウ会談決裂、今後の3つのシナリオ 米欧分断、増す不確実性

Mystyslav Chernov / AP Photo

 2月28日にホワイトハウスで行われたアメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談は、激しい口論の末に決裂した。この首脳会談は、ウクライナの鉱物資源に関する協定署名を予定していたが、ロシアへの対応や安全保障をめぐる根本的な意見の対立が露呈し、合意に至らなかった。

 トランプ氏はゼレンスキー氏を「無礼」「和平を望まない」と批判し、ゼレンスキー氏は「公正で永続的な平和」を求める立場を崩さなかった。この衝突は、ウクライナ情勢におけるアメリカと欧州の役割分担、そして両者の関係に新たな緊張をもたらしている。今後、欧州がウクライナに平和維持部隊を駐留させる案が浮上するなど、アメリカと欧州の分断が深まる兆候が見られる。

◆考えの違いを露呈した米ウ首脳会談
 まず、会談決裂の背景には、トランプ政権のアメリカ第一主義とゼレンスキー政権の生存戦略の衝突がある。

 トランプ氏は、ロシアとの融和を視野に入れた迅速な停戦を優先し、ウクライナの鉱物資源をアメリカの経済的利益につなげる取引を提案した。これに対し、ゼレンスキー氏は、ロシアの再侵攻を抑止する「安全の保証」をアメリカに求め、単なる停戦ではなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟や二国間同盟のような確固たる枠組みを要求した。

 この対立は、トランプ氏が安全保障よりも経済的取引を重視する一方、ゼレンスキー氏が国家存亡をかけた長期的な視点を重視した結果である。この利害の不一致が、会談の決裂を不可避とした。

◆顕著になるアメリカと欧州の分断
 会談決裂後、欧州諸国はゼレンスキー氏への支持を次々と表明した。ドイツ、フランス、イタリアなどの首脳は、ウクライナの公正な平和を支持し、トランプ氏の姿勢を暗に批判した。特に、イギリスのスターマー首相が2日にロンドンで開催したゼレンスキー大統領との首脳会談では、欧州諸国によるウクライナ支援の継続と和平に向けた取り組みなどが議論された。

 さらに、欧州がウクライナに平和維持部隊を派遣する案が浮上している。これは、アメリカがウクライナ支援から手を引く可能性を見越した動きであり、欧州が独自の安全保障政策を模索し始めた証左である。NATOの枠組みにおいて、アメリカは従来、軍事力と資金の主要供給源であった。しかし、トランプ政権下で孤立主義的な傾向が強まるなか、欧州は自立的な防衛能力の強化を迫られている。米欧間の戦略的分岐がNATOの結束を弱体化させるリスクをはらんでいる。

 一方、ロシア外務省は会談決裂を歓迎し、ゼレンスキー氏を無礼と批判する一方、トランプ氏の和平志向を評価した。これは、プーチン政権がアメリカとの二国間交渉を通じてウクライナ問題を有利に解決しようとする意図を反映している。

 しかし、ゼレンスキー大統領がウクライナ抜きの和平を拒否する姿勢を崩さず、それが欧州の支持を得ている現状では、ロシアが望む形で停戦が実現する可能性は低い。ロシアは今後、アメリカと欧州の分断を最大限に利用し、交渉の主導権を握ろうとするだろうが、欧州が平和維持部隊を展開するようなことになれば、ロシアの軍事的選択肢は制約され、長期的な膠着(こうちゃく)状態に陥る可能性がある。

◆今後の行方、3つのシナリオ
 今後の情勢を予測する上では、3つのシナリオが考えられる。第一は、トランプ大統領とゼレンスキー大統領が関係を修復させるケースである。ゼレンスキー大統領は、FOXニュースのインタビューで関係修復は可能だと述べ、歴史的な米ウ関係の重要性を強調した。この場合、アメリカはウクライナ支援を継続しつつ、ロシアとの停戦交渉を主導する可能性があるが、これは現時点で考えにくい。

 第二は、アメリカがウクライナ支援を大幅に削減し、欧州が主導権を握るケースである。平和維持部隊の駐留が実現すれば、欧州はウクライナの安全保障を担う一方、財政的・軍事的負担が増大し、欧州内部で意見対立が先鋭化するかもしれない。

 第三は、米欧の連携がさらに崩れ、ロシアが交渉を有利に進めるケースである。このシナリオでは、ウクライナが孤立し、不利な条件での停戦を強いられるリスクが高まる。

 結果として、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談決裂は、ウクライナ情勢における米欧の役割分担と国際秩序の再編を象徴する出来事である。アメリカの孤立主義と欧州の自立志向が衝突するなか、ウクライナは両者の間で難しい立場に置かれている。

 欧州の平和維持部隊派遣案は、短期的な安定をもたらす可能性があるが、長期的には財政的・政治的コストが課題となる。また、ロシアの戦略的対応次第では、紛争の解決がさらに遠のく恐れもある。いずれにせよ、米欧の分断が深まるなかで、ウクライナの未来は不確実性を増しており、今後の首脳間の対話と国際社会の協調が鍵を握るであろう。

Text by 和田大樹