経験不足の北朝鮮兵、ロシア軍の重荷に 死傷者続出、友軍誤射も

ハルキウ州近くのロシア陣地に向けて砲撃するウクライナ兵(11月6日)|Efrem Lukatsky / AP Photo

 ウクライナでの戦闘に北朝鮮の兵士約1万1000人がロシア側として参加しているとされるが、乏しい実戦経験や言語の壁が災いし、北朝鮮軍の死傷者数はすでに1000名規模に積み上がったと報告されている。友軍誤射も発生するなど、むしろ足手まといの状態にあるとの見方がある。

◆韓国議員「100人死亡、1000人負傷」
 英テレグラフ紙(12月20日)によると、ウクライナの軍事情報機関「GUR」は先週、ロシア軍に加わった北朝鮮の兵士で初めて死傷者が確認されたと発表した。ロシア西部のクルスク州のプレホボ、ボロブジャ、マルティノフカの各村での戦闘で、少なくとも30名が死傷したという。

 一方、韓国の李成権(イ・ソングォン)議員は、同国の情報機関からの報告をもとに、「少なくとも北朝鮮軍100名が死亡し、さらに1000名が負傷している」と述べている。

 英BBC(12月20日)は、北朝鮮が派遣した部隊の多くがストーム部隊に所属しており、「高い士気」を持つと報じている。しかし、記事は「現代戦への理解が不足している」とも指摘する。

 同部隊は運動能力の高い兵士のみが選抜され、通常の北朝鮮軍よりも高度な訓練を受けているが、その主な任務は通常、「敵地に潜入して混乱を引き起こすこと」に限られているという。

◆ロシア語を理解できず味方を射撃
 北朝鮮軍の実戦参加は、ベトナム戦争以来となる。あるウクライナのドローン部隊指揮官は、米ワシントン・ポスト紙に対し、「彼らは何が起きているのか理解していない。40~50人が野原を走り抜けていく様子は前代未聞だった。これでは砲撃とドローン攻撃の格好の標的だ。ロシア軍でさえ、そのような行動は取らないだろう」と語る。

 テレグラフ紙によるとGURは、言語の違いが深刻な問題になっていると指摘する。意思疎通が不十分であったことから、北朝鮮兵が誤ってチェチェン兵8名を射殺する事態も発生したという。

 米CNN(12月19日)によるとアメリカ政府の高官は、北朝鮮軍の「全階級」で死傷者が発生しており、指揮統制を担う指導者層も含まれていると述べている。

◆北朝鮮が実戦経験を積む結果に?
 現在は不手際が目立つ北朝鮮軍だが、専門家からは懸念の声も聞かれる。ウクライナでの戦闘参加を通じ、北朝鮮軍が経験を蓄積するのではないかとの指摘だ。元韓国陸軍中将のチョン・インボム氏は、CNNの取材に応じ、「(北朝鮮兵が)戦闘で成功を収めるか、あるいは失敗から学びを得るかにかかわらず、それは朝鮮半島そして世界にとって悪い知らせとなるだろう」と警告している。

 もっとも、当面はロシア軍に大きく貢献することはないだろう。テレグラフ紙は、北朝鮮軍がロシア軍の「悪夢」となっていると報じる。記事によると韓国の情報機関は、北朝鮮部隊は「使い捨て」の存在であり、ロシア軍にとって「戦力というよりも負担」となっているとの見方を示している。

 兵員不足のロシア軍を補う存在になるとみられた北朝鮮兵だが、ロシア軍に混乱をもたらすにとどまっているようだ。

Text by 青葉やまと