「関税一律60%」で中国経済が受けるダメージ トランプ氏への対抗策

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 アメリカ大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が当選確実となった。対中外交で強硬姿勢を打ち出す同氏の下、米中間で貿易戦争が再燃する見通しとなるほか、台湾有事など地政学的な緊張も危惧される。

◆米中貿易戦争は再燃へ
 トランプ次期大統領は、大統領に返り咲いた場合、中国製品に対し一律60%以上の関税を課す可能性があると発言している。これは前任時の7.5%〜25%を大幅に上回る数字であり、中国経済に大きな打撃を与える可能性がある。

 60%の関税は、両国の貿易を壊滅状態に導きかねない。ブルームバーグは、トランプ次期政権の下、米中貿易戦争が再燃する恐れがあると指摘する。

 中国経済はすでに弱体化の傾向にあり、貿易戦争次第ではさらなる打撃を受けかねない。不動産市場の危機によって中国の経済活動は大幅に減退しており、国際決済銀行(BIS)によると、債務残高は国内総生産(GDP)の約3倍に達している。内需が非常に弱く、デフレ傾向が強まっているため、景気対策を打ち出そうにも難しい状況にある。

◆中国の対抗手段は増えている
 もっとも、ブルームバーグは、以前の米中貿易摩擦と比較して、中国はより多くの対抗手段を用意していると論じる。レアアースの輸出規制や、中国国内で活動するアメリカ企業への制裁措置、そして人民元安誘導などが想定される。

 一方、ロイターは、仮に60%の関税が導入された場合、中国は深刻なダメージを負いかねないと警告する。2018年には不動産が経済活動の約4分の1を占めていたが、現在は深刻な不況に陥っている。地方政府の財政を支えてきた土地使用権収入も減少しているなど、内需は弱い。中国の家計支出はGDPの40%に満たず、世界平均を大きく下回る水準にある。

 すなわち、中国としては反撃の選択肢は増えたものの、その一方で経済の脆弱性も高まっている状況だ。60%の関税は企業や消費を直撃し、さらなるデフレ懸念を生む可能性がある。トランプ政権の強硬姿勢への対応は一層難しくなると予想される。

◆食料に安全保障…対米リスクを意識
 このような状況を受け、中国は対米リスクの最小化を図っている。その動きは経済だけでなく、食料供給の確保や安全保障の面にも及ぶ。食料供給の面についてブルームバーグは、中国が食料の代替供給国としてブラジルを選定していると報じている。大豆や穀物の調達ルートを多様化させ、食料安全保障を強化する構えだ。

 一方、AP通信によると、中国は台湾有事も視野に入れ、地政学的リスクに備えているという。トランプ次期政権との確執により、台湾問題が新たな火種となる可能性があり、有事の際の対応を想定しているとの指摘だ。

 ウクライナ情勢では、トランプ氏が中国に仲介役を求める可能性があるとブルームバーグが分析している。経済と安全保障の両面で、中国の役割が重要になる兆しがある。

 対立が先鋭化すれば、米中の双方に深刻な影響を及ぼす可能性がある。いかに建設的な対話を維持できるかが今後の焦点となるだろう。

Text by 青葉やまと