中国EVがスパイの道具、兵器に? 敵対国が悪用する可能性、米懸念
破竹の勢いの中国EV(電気自動車)各社に、先進諸国は安全保障上の脅威を感じている。BYDやNIO(蔚来汽車)など中国各社は、先進的な運転支援技術やバッテリー交換方式などを採用したEVを続々発表し、技術面で前進を続ける。だが、先進諸国に輸出され生活の一部に溶け込み始めたことで、搭載のカメラなどについてプライバシーや安全保障上の懸念が出ている。
◆GPSやネット接続機能に懸念
英テレグラフ紙は中国製EVに対し、セキュリティ上のリスクを指摘する。先進のEV車両は、高度なテクノロジーとインターネットへの接続機能を搭載する。また、車両にはカメラやマイク、GPSなどが搭載されている。悪意ある第三者がこうした情報にアクセスし、個人のプライバシーに重大なリスクをもたらすだけでなく、国家の安全保障も脅かす可能性があると記事は述べる。
英ガーディアン紙(9月23日)によると、アメリカのレモンド商務長官は、「こうした情報にアクセスできる外国の敵対者が、アメリカの国家安全保障とアメリカ市民のプライバシーの両方に深刻なリスクをもたらす可能性があることは、想像力を働かせるまでもなく理解できる」と述べ、脅威は「非常に現実的」であるとの見方を示した。
◆身近なガジェットで戦闘員が死傷した実例
直近での中東での一件は、中国製のEVがスパイ活動や攻撃手段の一環として悪用される可能性があるとの懸念を一層高めている。
レバノンの首都・ベイルート郊外などで9月18日、シーア派イスラム教徒の政治・軍事組織であるヒズボラの戦闘員が使用していたポケベルや無線機が爆発、500人弱が死傷する事件が発生した。イスラエルの関与が指摘されている。豪メディアの『news.com.au』は、この事件を念頭に、日常的に使用される技術がどれほど簡単に武器化されるかを示している、と述べる。
記事によると、アメリカの国家安全保障顧問であるサリバン氏は、「中国が破壊や妨害工作のために、わが国の重要なインフラにマルウェアを事前に配置していたという十分な証拠はすでに確認されている」と述べる。「そして、それぞれ10年から15年の寿命を持つ何百万台もの車両が道路を走る可能性があるため、混乱や妨害工作のリスクは劇的に高まる」という。
◆米では販売禁止への動きも
アメリカのバイデン政権は、中国製のEVや関連パーツがアメリカの国家安全保障上の脅威となる可能性があるとして、こうした車両の販売を禁止する新たな規制を検討している。
だが、中国製EVをターゲットにした規制は、新たな貿易戦争の火種になりかねないとの懸念もある。中国外務省はバイデン政権の動きを「差別的」と批判している。
一方、戦略国際問題研究所(CSIS)のジェームス・ルイス氏はテレグラフ紙に対し、過去にアメリカの重要インフラ内に、中国が支援するとされるハッキングツール「ボルト・タイフーン」が長年潜伏していた事実を挙げる。ルイス氏は「台湾で何か都合の悪いことが起こったならば、サンディエゴのすべての車を止めてしまうかもしれない」と述べ、中国製EVへの警戒感をあらわにしている。
高機能・低価格で攻勢をかける中国製EVだが、生活への浸透はリスクを伴うとの見方があるようだ。