欧州にハイブリッド戦争を仕掛けるロシア 破壊活動、暗殺、プロパガンダ

ロシアが暗殺を企てたとされるパッペルガー氏|Boris Roessler / dpa via AP

 ウクライナ戦争を有利に運びたいロシアは、欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国において、各種の破壊活動を展開しているとみられる。ドイツでは武器製造会社の経営トップを狙う暗殺計画が発覚した。

◆ウクライナ向け武器企業の暗殺計画
 米CNN(7月11日)は、ロシア政府が暗殺計画を企てたことを、アメリカとドイツの情報機関が突き止めたと報じている。ターゲットは、ウクライナ向けに武器を製造しているドイツの大手武器製造会社「ラインメタル」の最高経営責任者(CEO)アルミン・パッペルガー氏だった。

 ラインメタルは155mm砲弾を製造しているドイツ最大のメーカーであり、ウクライナ戦争で重大な役割を担う。アメリカの情報機関がこの計画を知り、ドイツに警告を発したことで、ドイツの治安機関がパッペルガー氏を保護した。暗殺計画は阻止されたという。

 ドイツではほかにも、ロシアが破壊活動を行っている証拠が複数見つかっている。たとえば、バイエルン州のグラーフェンヴェーアにあるアメリカ軍の施設では、ロシアの軍事情報機関とつながりのある人物と暗号化メッセージアプリでやり取りをしていたドイツ市民が逮捕された。この人物は、施設の写真を撮影し、破壊活動のターゲットを探していた、と米ワシントン・ポスト紙が報じている。CNNによると当該の人物は、ドイツとロシアの二重国籍だった。

◆ヨーロッパで広く行われている破壊活動
 ロシアによる欧州での破壊活動は、さまざまなパターンに及ぶ。イギリス、ドイツ、ポーランドでの事例が報じられている。

 イギリスでは今年4月、ウクライナ支援物資を保管していたロンドンの倉庫への放火事件が発生した。ワシントン・ポスト紙によると4人の男性が、ロシアの情報機関に協力していたとして起訴されている。

 ドイツでは今年5月、ベルリン近郊のディール兵器工場で火災が発生し、ロシアの情報機関との関連が調査されている。ポーランドでは今年5月には、ワルシャワ最大のショッピングモールで放火事件が発生し、9人が逮捕された。

 CNNはポーランドのドナルド・トゥスク首相のコメントとして、「リトアニアのIKEAでの火災も、ロシアの仕業かもしれない」との見解を報じている。

◆ロシアが進める「ハイブリッド戦争」
 NATOは警戒感を強めている。CNNによるとNATO高官は、「我々は破壊工作、暗殺計画、放火を目の当たりにしている。これらは人命に関わるものであり、ロシアの破壊活動は戦略的な影響を持つ」と述べている。

 米国家安全保障会議(NSC)のスポークスパーソンのエイドリアン・ワトソン氏は、「ロシアの破壊活動を非常に深刻に受け止めており、NATOの同盟国と協力してこれらの活動を暴露し、妨害するために積極的に取り組んでいる」と語った。

 ドイツのアナレーナ・ベアボック外務大臣は、ロシアが欧州の国に対し「ハイブリッド戦争」を仕掛けていると語る。ウクライナでの軍事行動に加え、ロシアが非軍事的な手段を用いてプロパガンダや破壊工作などを行い、欧州諸国の安定を揺るがそうとしているためだ。

 米国防総省が出資する星条旗新聞(7月10日)によると、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「我々はロシアの敵対行動に対して警戒を強めている」と述べ、加盟国が協力して対策を講じていることを強調している。

Text by 青葉やまと