中国で日本人襲撃事件は続くのか 今後懸念される安全保障リスク

中国・蘇州市の繁華街|Wei Ming / Shutterstock.com

 尖閣諸島や台湾情勢、貿易摩擦など日中間で緊張が続くなか、中国では日本人が襲われる事件が続いている。

 江蘇省蘇州市で6月24日、蘇州日本人学校のスクールバスが下校中の生徒たちを乗せてバス停に到着した際、中国人の50代の男が生徒を迎えに来ていた日本人女性と一緒にいた子供を相次いで刃物で刺した。幸いにも2人の命に別条はなかったものの、バスに同乗していた中国人女性は刺されて死亡した。男は現地警察に拘束され取り調べを受け、社会に対する不満があったなどと述べていると報じられている。

 この事件を受けて同校は25日を休校とし、北京にある日本大使館は最近中国で人の集まる場所で刃物による刺傷事件が相次いでいるとし、在中邦人に外出の際には周囲の状況に注意するよう呼びかけた。

◆4月にも同様の事件
 同様のケースは4月にも発生している。蘇州市内の日本料理店が立ち並ぶ繁華街の路上で、日本人の男性が中国人とみられる男にナイフで切りつけられる事件が発生した。男性は軽傷を負い、切りつけた男は事件直後に地元警察に拘束された。

 しかし、この事件について中国政府からの発表はなく、メディアも一切報道しておらず、日本総領事館も現地に住む日本人に対して注意喚起をしていなかったという。

 この事件現場は今回のスクールバス襲撃事件の現場から僅か500メートルほどしか離れておらず、蘇州の日本人コミュニティの間では不安の声が広がっている。

◆決して中国国内の治安が悪いわけではない
 中国では2014年に反スパイ法が施行されてから、商社マンや大学教授など日本人が拘束されるケースが相次いで発生している。昨年7月からはスパイ行為の定義を大幅に広げた改正反スパイ法が施行され、逮捕拘束される頻度が高まることへの警戒感が広がっている。

 このように政府による統制が強化されるなどしているが、殺人や強盗などの犯罪率が決して高いわけではない。これまで中国を訪れた筆者の体感からすれば、アメリカや欧州よりも一般犯罪に巻き込まれるリスクは低いようにも感じられる。現実的に考えれば、今後こういった邦人が巻き込まれる事件が続く可能性は低いと言えよう。

◆懸念される安全保障リスク
 とはいえ、日中を取り巻く今後の安全保障リスクを考慮すれば、在中邦人の安全を脅かすケースが発生する潜在的なリスクがある。

 たとえば、尖閣諸島や台湾情勢などで日中は対立軸にあり、近年は先端半導体分野で日本がアメリカと足並みをそろえる形で中国への輸出規制を強化することに中国は強く反発している。昨年8月の日本産水産物の輸入を突如一方的に停止したのも、日本に対する政治的不満がある。

 このところ南シナ海では中国海警局の巡視船によるフィリピン船への暴力が過激化しているが、尖閣周辺を航行する巡視船のなかには機関砲などを搭載した船も見られ、尖閣でも中国側の行動が過激化し、それによって日中関係が一気に冷え込む恐れもある。

 2012年9月に海上保安庁の船と中国漁船が衝突し、日本側が船長を拘束したことがきっかけで、中国国内では反日デモが各都市に広がった。パナソニックやトヨタなど日本企業のオフィスや工場が破壊され、日系のスーパーやコンビニでは略奪行為が横行した。この際にも在中邦人の安全が大きな問題となったが、今後尖閣や台湾などの問題を起爆剤として、在中邦人の安全が脅かされるケースが発生することが懸念されるだろう。

Text by 和田大樹