「肉ひき機」戦略続けるロシア、1日1000人以上が死傷 訓練不足の新兵が次々戦場へ

ウクライナのロシア兵(6月25日)|Russian Defense Ministry Press Service via AP

 ロシアはウクライナ戦争において、自軍兵士の犠牲をいとわない「肉ひき機」戦略を採っている。毎月最大3万人の新兵を戦場に送り込み、犠牲を承知のうえで前進させる戦略だ。指揮官が兵士を死地に送り込むことに無頓着であるとして、ロシア兵の間で不満が募るが、ロシア国内での問題意識は高くないようだ。

◆ロシアは「驚異的な損失」を被っている
 米国営ラジオ放送のボイス・オブ・アメリカ(7月1日)は、直近の複数の調査報道により、ロシア軍が「驚異的な損失」を被っていることが判明したと報じている。

 ウクライナ軍参謀本部は1日、2022年2月以来のロシア軍兵士の死傷者は54万3810人に上ると発表した。

 一方、イギリス国防省の5月末の発表では、ロシアの死傷者は推定50万人。ロシア軍の死傷者は2024年も高水準で続いており、5月の平均死傷者数は1日あたり1200人以上と、開戦以来最多となっている。

 独立系ロシアメディアのメディアゾナと同メデューサは今年2月、開戦以来、推定8万3000人のロシア兵がウクライナで死亡したとの調査結果を発表している。

◆毎月最大3万人を新たに投入
 米ナショナル・インタレスト誌(6月29日)は、「ウクライナ戦争に勝とうとするロシアの『肉ひき機』戦略は、非常に残酷である」「ロシアの戦術は、犠牲者をいとわない『肉ひき機』戦略と呼ばれている」と述べ、ロシアの戦術がいかに残酷で非人道的であるかを強調する。

 ロシアの肉ひき機戦略は、兵士を大量に前線に送り込み、ウクライナの防御を圧倒しようとする戦術だ。ニューヨーク・タイムズ紙(6月27日)は、ロシアが毎月2万5000人から3万人ほどの新兵を補充し戦場に送り込むことで、戦線を維持しようとしていると報じている。米政府高官によると、ロシアが採用する毎月最大3万人の新兵の数は、戦場から離脱する兵士とほぼ同数だという。

 ロシアの人口がウクライナよりも多いため、このように兵士を実質的に無制限に補充することが可能となっている。その一方で記事は、新兵の訓練が不十分であることが問題となっている、とも指摘する。訓練不足の兵士が前線に送られることで、さらに多くの犠牲者が出るようになった。

◆大量の犠牲を出しただけに終わった戦闘も
 この戦略はこれまでのところ、特にアウディーイウカやバフムートなど東部の都市で効果を発揮している。ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシア軍はアウディーイウカでの戦闘において波状攻撃を繰り返し行い、ウクライナの防御を崩すうえで一定の効果を上げたとする。

 ナショナル・インタレスト誌は、ドンバス地方全般において、ロシアの肉ひき機戦略が顕著に見られるとしている。

 一方、ロシア軍が兵士の多大な犠牲を払ってもなお、ウクライナの防御に阻まれた戦闘もある。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ハルキウ近郊での戦闘においては、ロシア側が肉ひき機戦略を試みたものの、ウクライナ軍の防御に阻まれる形で失敗に終わった。今年春の東部前線での攻撃でも、ロシアの肉ひき機戦略は効果を発揮していない。

◆「国民は兵士を気の毒に思っていない」
 そもそもロシア軍が犠牲を覚悟せざるを得ない事情として、現代戦の性質が挙げられる。ドローンや地雷、クラスター弾などが戦場で多用されており、兵士の前進が困難になった。そこで、犠牲者の増加を大量の人員の補充で補う手法が編み出された。

 残酷な戦場の現実に反し、ロシア国内においては、犠牲者を悼む市民は必ずしも多くない。モスクワに拠点を置く人権団体「シティズン・アーミー・ロー」のセルゲイ・クリベンコは、ボイス・オブ・アメリカに対し、多くの新兵は強制徴兵された兵士ではなく、契約兵士だとの事情があると説明している。

 「彼らは自分で選択したのです。さらに、彼らはかなりの給料を受け取っています。つまり、一般の人々は、別段彼らを気の毒に思っていないのです」

 だが、人的損耗が続けば、兵士の質は下がり続ける。肉ひき機戦略はロシア軍の新たな慢性的な問題となっている。

Text by 青葉やまと