「安全保障」とメディア規制 アルジャジーラ停止とTikTok禁止法の共通点
中東カタールのメディア、アルジャジーラのイスラエル支局が活動停止を命じられた。同時期にアメリカで可決されたTikTok禁止法との関連性を指摘する声もあがっている。民主主義の危機として懸念が高まるメディア規制の動きとは。
◆アルジャジーラ支局の閉鎖
イスラエル議会は4月1日、政府が国家の安全を脅かしているとみなした外国メディアに対して、事務所の一時閉鎖や放送の停止などといった規制をすることができる法律を71対10の賛成多数で可決。法案には「外国メディア」とあるが、中東のアルジャジーラを標的にしたものだとみられていた。実際、イスラエルのネタニヤフ首相は、この法案の成立を踏まえ、国内におけるアルジャジーラの活動を即刻停止するという意思を示した。首相は、昨年10月7日のイスラム組織ハマスによる大規模なイスラエルへの攻撃に、アルジャジーラが積極的に関与するなどして、イスラエルの国家の安全を脅かし、イスラエル兵を扇動したと主張した。
そして今月5日、内閣の全会一致でアルジャジーラのイスラエル国内での活動停止が決定。この決定は直ちに有効となり、その日のうちにイスラエル警察が同社エルサレム支局の事務所に立ち入り、報道機材などを押収した。これに対し、アルジャジーラ側は、イスラエルの行動は「犯罪行為」であり、国際人権法で規定されている報道の自由を阻害するものであると強く非難し、糾弾した。また、エルサレムの外国人記者協会(FPA)は、メディアにとっても、そして民主主義にとって暗黒の一日であるとの声明を発表した。
◆アメリカのTikTok禁止法との関連性
他方、同様のタイミングでアメリカでは、中国のバイトダンスを親会社に持ち、米ロサンゼルスとシンガポールに世界本部がある動画SNS、TikTok(ティックトック)をアメリカ国内で禁止する法律が成立した。TikTokは2016年にロンチし、若者を中心に人気を集めてきたが、2019年後半ごろから、アメリカの政治家は、中国企業が所有するアプリの影響力について警鐘を鳴らし始め、同年12月、国防総省が軍事関係者の携帯からアプリを削除するよう勧告を出した。その後、中国政府が、アメリカのTikTokユーザーの個人データにアクセスできるのではないかという懸念が高まり、TikTok禁止法が成立するに至った。猶予期間の間に、親会社のバイトダンスがTikTokを非中国企業に売却しない限り、TikTokはアメリカでは禁止されることになる。TikTok側は、これを違憲だとしてアメリカ政府を提訴した。
イスラエルとアメリカにおけるメディア規制を踏まえ、報道の自由財団(Freedom of the Press Foundation)のアドボカシーディレクターであり、表現の自由を専門とする弁護士のセス・スターン(Seth Stern)は、2国の法律には、イスラエル・ガザ戦争批判者を黙らせたいという共通点があるとの見方を示した。彼は、どちらの法案成立にも使われている安全保障という言葉が、広範で曖昧さがあり、また、一つのメディアの禁止をきっかけに、さらにメディア規制の動き、つまり言論の自由を規制する動きが加速する可能性もあると危惧する。今後、ドナルド・トランプなど権威主義的な大統領が政権を握った場合、安全保障を大義名分に規制を乱用することも懸念される。
外交関係の課題が戦争や紛争、緊張関係の高まりという形で顕在化するなか、政府による情報コントロールの動きについては、慎重に観察する必要がありそうだ。