なぜ、ウクライナはロシアによる侵攻を許したのか
ウクライナ戦争は3年目に突入しているが、現在の戦況はロシア有利になっており、ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカからの支援が滞れば戦争に負けると幾度も嘆いていた。そのようななか、アメリカではウクライナへの追加軍事支援を含む総額608億ドル(約9.4兆円)の予算案が議会を通過し、バイデン政権は早速支援を再開している。だが、これだけでロシア軍をウクライナ領土から追い出すことは難しいと思われ、今後も一進一退の攻防が続くことだろう。
そういった戦況のなかもう一度振り返り、なぜウクライナはロシアによる侵攻を許してしまったのか考えてみたい。これについては歴史や文化、民族などさまざまな背景があるだろうが、ここでは安全保障の視点から2つの理由を探る。
◆ウクライナが核を持っていない
まず一つ目の理由としては、ウクライナが核兵器を持っていないということがある。国際政治や安全保障の世界では核抑止は、簡単に言うと、核を保有し、それによって対立国をけん制し、行動を思いとどまらせることを意味するのだが、ウクライナは核兵器を保有していない一方、ロシアは核大国である。
無論、ウクライナが核を持とうとすればロシアはその時から行動に移すことが考えられるが、安全保障論の視点から言えば、ウクライナが核を保有していないという事実は、ロシアによる軍事侵攻のハードルを下げる要因の一つになったことは間違いないだろう。
◆ウクライナがNATOに加盟していない
そしてそれ以上に大きな要因となったのは、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないという事実だろう。これも同じく、ウクライナがNATOに加盟するプロセスが進むようなことがあれば、ロシアはそれを食い止めるあらゆる策を講じていたと思われるが、2022年2月の時点でウクライナがNATO加盟国だったとすれば、ロシアも軍事侵攻という決断はできなかった可能性が高い。
北大西洋条約第5条で定めるように、加盟国に対する武力攻撃は全加盟国への攻撃とみなし、軍事的手段を含むあらゆる措置で対処するという集団防衛体制になっており、ウクライナが加盟していれば、ロシアはNATO加盟国 30ヶ国あまりを即敵に回すことになる。その状態でロシアはなす術はない。
侵攻後、ロシアと国境を接するフィンランド、スウェーデンはNATO加盟のプロセスを急ピッチで進め、フィンランドが2023年4月、スウェーデンが2024年3月にそれぞれNATOに正式に加盟したが、両国は単独ではロシアの脅威に対処できないことから、NATO加盟によって自国の安全保障を担保しようとしたのである。両国がNATO傘下に入れば、ロシアもなかなか挑発的な行動は取りづらい。ウクライナと同じく旧ソ連圏を構成したリトアニア、ラトビア、エストニアのバルド3国は2004年にNATOに加盟したが、これも双方の運命を大きく分ける要因となったと言えよう。