分析:中国とインド、ロシアのウクライナ侵攻へのスタンスを変化させたのか?

Willy Kurniawan / Pool Photo via AP

 ロシアのウクライナ侵攻後、何ヶ月にもわたって糾弾を控えていた中国とインドは、G20サミットで世界の主要国がロシアを強く批判する宣言をまとめるにあたり、妨害することをしなかった。

 この動きは、ウクライナに多くの犠牲者と悲惨な状況をもたらし、食糧とエネルギーの価格高騰と経済の亀裂で何百万人もの生活を混乱させた戦争を終結させるのに、アメリカとその同盟国が考える最善の方法に中国とインドが歩調を合わせるという、大胆で目新しい政策転換の徴候とみていいのだろうか。

 厭戦気分が広がる世界からすれば、成長著しい両経済大国が戦争に対する見方を変えてほしいと切望する向きは確かにある。

 だがよく見ると、インドネシア・バリ島で開催されたG20サミットの終盤に発表された首脳宣言だけでなく、中国やインドが実際にみせた行動にも曖昧な点や微妙な部分があり、両国で本当に変化が起きているのは依然として不明である。

 その立場は今後明らかになるとみられるが、現時点ではロシアと相当規模の交易を行い、これまでも紛争に関してあからさまな批判をすることもなかった両国は、自国の利益を追求しつつ、将来の選択肢を残しているだけなのかもしれない。

 バリ島で実際に何が起きたかを正確に把握することは重要である。中国やインドによる政治的・外交的圧力がなければ、ロシアが戦争を終結させる可能性はきわめて低くなるという懸念が高まっているからである。

 ロシアのラブロフ外相も出席したバリ島での2日間のサミットの期間中、ウクライナでの紛争の影が大きく忍び寄った。16日未明にポーランド東部をミサイルが襲ったというニュースを受け、アメリカのバイデン大統領は急遽、会合に出席していたG7およびNATO加盟国のメンバーとの緊急会合開催に向けて動いた。

 G20サミット開催国のインドネシアのジョコ大統領は、「ロシアのウクライナ侵攻を宣言でどのように取り上げるかをめぐって紛糾する舞台裏の運営は、とてつもなく大変な作業だった」とした上で、「ほとんどのG20メンバーがウクライナ侵攻を強く非難したほか、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した」と宣言で発表している。

 「ほとんどのメンバー」という全参加国ではなかったことを示す表現からすると、異論もあったことが示唆される。「ほかの見解や異なる評価もあった」や、G20が「安全保障問題を解決するためのフォーラムではない」ことを認めた表現にもそれが表れている。

 だが最終的には、多くの犠牲者を出し、世界の安全保障の緊張を高め、世界経済を混乱させた戦争を強く非難する内容に落ち着いたとの見方もあった。

 G20会合の宣言では、「ロシアのウクライナ侵攻を最も強い言葉で非難し、ウクライナ領土からの完全かつ無条件の撤退を要求する」とした3月の国連総会決議の文言が踏襲された。

 ドイツのショルツ首相は「我々が団結するにあたり、G20サミットで重要な国々が一役買ってくれなければ、ウクライナ問題について驚くほど明確なメッセージを出すことはできなかった」としている。重要な国にはインドのほか、おそらく南アフリカなども含まれるとみられる。

 ショルツ首相は「さまざまな理由があって国連決議を棄権した国があるにせよ、この戦争には正当性がないと思う人、非難の声を上げる人が世界には多くいることを示すものだ」としつつ、「これこそ、今回のサミットで得られた成果のひとつだと確信している。プーチン大統領は、自らの政策により世界から孤立しているのだ」と述べている。

 G20リサーチグループのディレクター、ジョン・カートン氏は「中国とインドが目前にある大きな地政学的分断に際し、民主主義陣営に加わったことを大きな躍進、前向きな変化」と評している。

 だが内情をみた上で、中国がロシアに対するスタンスを変えたと断言することを留保する外交関係者もいた。

 中国の習国家主席は、ほかの首脳と直接顔を合わせるバリ島での会談の場で、妨害者や異常者と見られないようにしたに過ぎないのかもしれない。また、中国はこの宣言により、市民や民間インフラに対する攻撃を強化し、孤立感を強めつつあるロシアと一緒にされるのを回避することができる。

 中国は依然としてロシアとの基本的な関係を変更しておらず、また公に疑問を投げかけることもしていない。パイプラインのプロジェクトや天然ガスの取引で両国の経済関係が強まるなか、中国は近年、ロシアと緊密に連携した外交政策を展開している。

 ロシアの侵攻を公に批判することはおろか、その動きを侵略と呼ぶことさえも控える一方で、ロシアに課されている制裁を批判し、アメリカとNATOがプーチン大統領を挑発していると非難した。ただ、紛争解決を核兵器に訴えることには警告を発している。

 ウクライナ侵攻の数週間前、ロシアと中国の首脳は北京で会談し、二国間関係には「際限がない」ことを確認する共同宣言に署名している。

 G20サミットの宣言において「ほかの見解や異なる評価」を認め、G20が「安全保障問題を解決するためのフォーラムではない」という穏やかな表現の採択を中国が要求したかは不明だが、北京にある中国人民大学国際関係学部の時殷弘教授は、別の外交の場でも類似の表現を求めたことがあったとしている。

 インドのモディ首相も同様に、ロシアのウクライナ侵攻への批判を控えてきた。だが首相は9月にプーチン大統領と会談した際、公の場で初めてロシアの侵攻について遺憾の意を示した。

 モディ首相は「いまは戦争の時代ではない」とプーチン大統領に語ったとされる。インドのクワトラ外務大臣は記者団に対し、そのメッセージは「すべての代表団の心に深く共鳴し、さまざまな当事者間の意識の差を埋めるのに役立ち、バリでの優れた宣言文書の採択に貢献した」と述べている。

 インドの元外交官、ナウディープ・スリ氏によると、ロシアに対するインドの立場には微妙な変化がみられるという。スリ氏は「中国は侵攻の数日前にロシアに対する無制限の支援を約束したため、インドと比べるとかなり苦しい立場に置かれているかもしれない」としつつも、「中国は遂に、ウクライナからのロシア軍の無条件かつ完全な撤退を含む、厳しい表現に同調してしまった」と話している。

 同じく元外交官であるディリップ・シンハ氏は、ロシアから原油を輸入し、交易を続け、ロシアを批判する国連決議を棄権したインドについて「自分たちには自分たちのやり方があるという強がりの心理がある。ウクライナに侵攻したロシアに対するインドの外交政策には微塵の変化も感じられない」と述べている。

By FOSTER KLUG Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP