欧州の勢力図を塗り替えるロシアのウクライナ侵攻 EU、NATO加盟に傾く国々
1989年にソビエト帝国が崩壊して以降、ロシアによる影響力は低下し、友好国は減少している。それにもかかわらず核を保有するこの超大国は、依然として欧州の近隣諸国に対して支配力を振るい、中立を保つ国の不安は解消されないままである。
ロシアによる隣国ウクライナへの侵攻と、それに伴う人道上の惨劇が引き起こされてから3週間が経過した。最大限の支援を行う西側諸国からの非難は高まる一方であり、欧州における地政学上の勢力図を塗り替えるための抜本的な見直しを求める声が上がっている。
2022年の現状に基づく線引きは、一見するよりもはるかに困難をともなう。ロシア政府の意に反し、欧州で2番目に大きな国であるウクライナを西側諸国に取り込むことで、非常に大きな問題に発展する可能性がある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月1日、欧州議会でオンライン演説を行い「EUは確実に、ウクライナとともに一段と強くなる。ウクライナとともにあると証明してほしい。ウクライナを手放さないと証明してほしい。EUが真のヨーロッパであることをどうか示してほしい」と力強く訴えた。
EU(欧州連合)の首脳たちは3月10日から2日間の日程で、パリ郊外のベルサイユで会合をもった。ウクライナのゼレンスキー大統領は先月28日、EU加盟を正式に申請する文書に署名したが、この要請をめぐる意見が参加国の間で対立し、早期加盟に向けた具体的な方向性は示されなかった。
ロシアによる領土拡大の脅威にさらされている小国のモルドバとジョージアもまた、ウクライナに追随しEUへの加盟を申請した。EUが抱える問題はさらに大きくなる。
ロシアによる侵略の激しさは、歴史的に中立国であったスウェーデンやフィンランドをも震撼させ、両国ではNATO加盟への支持が急増している。フィンランドでは、ロシアによる重い影響下からの解放を意味する「フィンランド化」という言葉が政治的に用いられてきた。
これまで数週間の間に欧州における地政学上の勢力図が様変わりしており、どの国がどちら側に立っているのかという常識はすでに覆された。
好機が訪れることへの期待感に湧く一方で、状況は遅々として進展しない可能性もある。
多くの国が、同盟地域の急速な拡大や従来からの勢力圏の再編によって、本格的な戦争が目前に迫ることを危惧している。27ヶ国からなるEUへの加盟を目指すウクライナこそまさに、欧州の勢力均衡を崩す要因になりかねない。
シャルル・ミシェル欧州理事会議長は、ベルサイユ・サミットへの招待状のなかで「EUはウクライナとともに、自由と民主主義を断固支持している。ウクライナは欧州の家族の一員である」と言い表した。言葉を慎重に選び、加盟への約束を明言するような表現は避けた。
EUに加盟している東欧8ヶ国の首脳たちは、ウクライナへの支援を正式に表明した。そのなかでもエストニアのカヤ・カラス首相は3月2日、フランスのストラスブールで開かれた欧州議会で演説を行った。
カラス首相は「ウクライナに対し、加盟の可否をめぐる見通しを示すことに関心を寄せるだけでなく、加盟を承認することもまた私たちにとっての道徳的な義務だ。ウクライナはウクライナのために戦っているのではなく、欧州のためにも戦っている。いまでなければ、一体いつになるのか」と訴えた。
一方、同じ日にパリでは、オランダのマルク・ルッテ首相が時期尚早であるとの見解を示した。
ルッテ首相はゼレンスキー大統領との電話会談のなかで「早期加盟への熱意は理解している。しかし数年を要するようなプロセスを経なければならず、早期承認は実現しないだろう。我々がいまできること、明日、来週、そして来月できることを考えよう」と述べた。また、モルドバとジョージアからの加盟申請については、両国がウクライナほど差し迫った脅威にさらされていないため、その可能性はさらに低いと断言した。
シンクタンクである欧州外交評議会のパウエル・ザーカ氏は「ウクライナのEU加盟承認をめぐる議論は、過熱しやすいものだ。EU懐疑派は有権者に恐怖を広める格好の機会を得ている」と指摘する。
これまで、加盟申請には数年から時には数十年を要することもあった。1987年に加盟申請を行ったトルコは、いまでも同盟国からほど遠い位置にある。加盟候補国の地位を得た4ヶ国については、EUは東方拡大をさらに進めることに思い惑っている。他国を差し置いてウクライナの加盟を承認することで、数ヶ国が承認を待ち望んでいる西バルカン地域の感情が高まることにもなるだろう。
そして、承認が予定される新規参入国は、EUが制定するすべての規則に従う必要がある。その規定は、法の原則から商取引、肥料の基準にいたるまで約8万ページにわたる。ここ数年間でEUは、ウクライナによる汚職防止政策には厳しさが欠けると指摘を繰り返してきた。
なによりも、加盟候補国は同盟国による全会一致の承認を得る必要がある。承認にいたるすべてのプロセスが一国の決定に委ねられる事態もしばしば生じている。
それと比較すると、NATOへの加盟はより敷居が低い。とくにスウェーデンやフィンランドなど、この軍事同盟と密接な協力関係を築いてきた国にとってはなおのことだ。
それでもなお、正式な手段を取ることでロシア政府からのさらなる怒りを買うことになり、地政学上の権力争いと受け取られることにもなる。
ロシア外務省情報局長マリア・ザハロワ氏は「なによりも軍事同盟であるNATOにフィンランドとスウェーデンが参加するならば、ロシア連邦からの報復措置が講じられ、軍事的、政治的に深刻な結果をともなうのは必至だ」と釘を刺す。
しかし、形はどうであれ北欧諸国の中立主義はすでに崩壊しているともいえる。
英国王立研究所のエド・アーノルド氏は「スウェーデンとフィンランドはウクライナへの軍事支援により、実質的には中立主義と決別している」と述べている。
By RAF CASERT Associated Press
Translated by Conyac