トランプ・タリバン合意から始まった「アフガン崩壊」
アフガニスタン軍と政府が崩壊し、イスラム原理主義勢力タリバンが同国首都カブールを攻略してはや1週間が経過した。タリバンから逃れようとカブール国際空港に殺到するアフガニスタン人や同国滞在中の外国人の姿に、世界中で多くの人々が心を痛めている。バイデン大統領による指示の下、米軍が撤退を進めるなか、アフガニスタン政府が崩壊したことで、同大統領に非難が集中する結果となった。しかし、撤退自体はトランプ氏在任中の2020年から徐々に行われていたことである。バイデン大統領が8月末までに完全撤退すると宣言したものの、撤退完了前にここまで簡単にアフガニスタン政府が崩壊するとは誰も予想していなかっただろう。だが、この崩壊劇は、トランプ政権がタリバンと撤退合意を交わした2020年からゆっくりと進んでいたと言える。
◆賄賂を渡して降伏を交渉
ワシントン・ポストによると、タリバンはアフガニスタン政府軍に賄賂を渡して、引き換えに兵器を引き渡し降伏するよう交渉した。アフガニスタン軍兵士の多くは、タリバンから金を受け取り脱落していったようだ。これではタリバンが猛スピードでアフガニスタン全土を攻略していったのも無理はない。同記事によると、タリバンは小さな部落から交渉を始め、徐々に各州都を陥落させていった。そして8月15日、ガニ大統領が同国を脱出すると、たやすく首都カブールを陥落したのである。そんなタリバンによる降伏交渉が始まったきっかけがトランプ政権との米軍撤退合意だったという。
米公共ラジオ(NPR)によると、トランプ政権の代表は2020年2月29日、カタールのドーハでタリバンの共同創設者でナンバー2のアブドゥル・ガニ・バラダル師と会談し、米軍を完全撤退することに合意。合意内容には、米軍を合意から14ヶ月以内に完全撤退すること、そして135日以内に同国内の5基地から撤退して駐留軍の規模を8600人まで縮小すること、そしてアフガニスタン政府軍側からタリバンの戦闘員5000人、タリバン側からは政府軍兵士1000人を釈放すること、タリバン側はアフガニスタン政府と平和に向けた話し合いを行うことなどが盛り込まれていた。
この合意は、なぜかアフガニスタン政府抜きでトランプ政権とタリバン間で直接行われたものである。トランプ政権がなぜタリバンと直接交渉したのかは定かではないが、トランプ政権はこの時点ですでに、アフガニスタン政府が米軍の支援抜きでは機能できず、撤退後はタリバンが同国を支配すると仮定していたのかもしれない。あるいは、合意の裏にロシアなどの第三国、または何らかの利権が絡んでいたことも考えられる。
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