最新兵器もタリバンの手に アフガン軍に投じた830億ドル、繰り返された失敗

Rahmat Gul / AP Photo

 20年間で830億ドル(約9.1兆円)かけて増強、訓練されたアフガン治安部隊は、短期間で完全に崩壊した。アメリカによる投資は、最終的にタリバンを利することになった。タリバンは政権だけでなく、アメリカが提供した銃、弾薬、ヘリコプターなどの火器も手に入れた。中心部の防衛に失敗したアフガン政府軍を圧倒するとともに、最新の軍事機器を獲得した。その後、州都や軍事基地を驚異的な速度で席巻した際には戦闘機など大物を手に入れたほか、15日に最大の戦果ともいうべきカブールを占領した。

 アメリカ国防関係者は16日、アフガン治安部隊に提供した大量の装備が短期間のうちにタリバンの手に渡ったことを認めた。今回の逆転劇は、アメリカ軍や情報機関がアフガン政府軍の実力を見誤った結果の表れである。アフガン治安部隊は戦いもせず、車両や武器を放棄することもあったという。

 アメリカがアフガニスタンで持続可能性のある軍隊と警察部隊を作れなかったこと、治安部隊が崩壊した理由については、軍事アナリストが今後数年かけて検証していくだろう。だが基本的な側面は明らかで、イラクで起きた状況と大して違わない。治安部隊は優れた武器を装備していたが、多くは肝心の戦闘意欲のない心ここにあらずの軍隊となっていた。

 ロイド・オースティン国防長官の首席報道官であるジョン・カービー氏は、「お金で意欲は買えない。リーダーシップを買うことはできない」と述べている。

 ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ両政権下でアフガン戦争の戦略策定に直接携わった元陸軍中将のダグ・リュート氏は、アフガニスタンは有形資源を手に入れたものの、肝心な無形資源が足りなかったと指摘している。

 同氏は、「戦争の原則が意味するところは、精神的な要素が物的な要素を支配することにある」とした上で、「士気、規律、リーダーシップ、部隊の結束力は、兵力や装備の数よりも重要な決め手となる。部外者であるアメリカは物資を供給することはできても、無形資源ともいうべきモラルを植え付けるのはアフガニスタンの人々に限られる」と語る。

 それとは対照的に、反政府勢力のタリバンは兵力で劣り、洗練された武器も空軍も保有していなかったものの、優れた軍事力を発揮した。アメリカ情報機関はタリバンの優位を著しく過小評価しており、4月にジョー・バイデン大統領が米軍の全面撤退を表明した後でさえも、彼らの最終攻勢がこれほど華々しく成功することを見通せなかった。

 2001年にアフガン紛争に参加し、ドナルド・トランプ政権末期に国防長官代理を務めたクリス・ミラー氏は、「もしわれわれが希望を行動指針にしていなければ……米軍の早急な撤退がアフガン政府軍に『自分たちは見捨てられた』というシグナルを送ったことに気付いただろう」と語る。

 コロンビア大学の国際・公共問題の教授で、アフガニスタンで米軍司令官のアドバイザーを務めたこともあるスティーブン・ビドル氏は、バイデン大統領の発表が最終的な戦力崩壊につながったと指摘する。

 同氏は、「米軍撤退の問題点は、『万事休す』というシグナルを全土に送ったことだ。突然シグナルがいたるところに知れ渡り、誰もがそのように受け取った。アフガン政府軍は4月頃には、徐々に、しかし着実に戦闘に負けるようになっていた」と語る。アメリカというパートナーが撤退すると聞いた兵士たちの間には、戦いを止めて逃れたという衝動が「野火のように広がった」という。

 だが敗北の原因は以前にさかのぼり、しかも根深いところにある。アメリカはタリバンと戦い、カブール政権の政治的基盤を拡大し、汚職や縁故主義がはびこるアフガニスタンに民主主義を確立しようとしていた間に防衛体制を早急に構築しようとした。

 アメリカ軍指導者は何年にもわたって問題を軽視しており、成功は目前に迫っていると主張していた。壁に書かれた落書きを目にした人もいた。陸軍士官学校の戦略研究所で教授を務めていたクリス・メイソン氏は2015年に、過去の戦争からの教訓を学ぶことができない米軍の失敗について本を書いた。これには、「アフガン治安部隊が持ちこたえられない理由(Why the Afghan National Security Forces Will Not Hold)」という副題がつけられている。

 同氏は著書のなかで、「アフガニスタンの将来について率直に言うと、アメリカはベトナムとイラクで過去2回、戦略レベルで同じような道を歩んできた。アフガニスタンで違う結果が出ることを示す理にかなった根拠はない。アフガニスタンが徐々に衰退していくことは避けられず、国家としての破綻は時間の問題だ」と述べている。

 アフガン政府軍のなかには懸命に戦った部隊もあったが、英雄的な行動などはまだ十分記録に残されていない。しかし、戦略国際問題研究所で長年アフガン戦争を分析しているアンソニー・コーデスマン氏によれば、アメリカとNATO同盟国が作りあげた治安部隊は、全体的にみれば「トランプのカードでできた家」のように脆く、アメリカの民間指導者と軍事パートナーの手際の悪さにより崩壊にいたったという。

 アフガンの戦力増強演習は、完全にアメリカの大盤振る舞いに依存しており、米国防総省はアフガン軍人の給料さえも支払っていた。膨大な量の燃料と資金が帳簿を改ざんした腐敗高官や政府監督者により流用されたほか、「幽霊兵士」を作り出して不正に使われた資金を貯め込むような事態が頻繁に起きた。

 2008年からアフガン戦争を追跡調査しているアフガニスタン復興特別監察官室によると、アメリカ政府がアフガン再建のために費やした約1450億ドル(約16兆円)のうち、約830億ドル(約9.1兆円)が軍および警察部隊の開発と維持に使われている。この1450億ドルは、2001年10月のアフガン侵攻から始まった戦争にアメリカが費やした8370億ドル(約92兆円)とは別枠である。

 20年間でアフガン治安部隊に投入された830億ドルは、昨年のアメリカ海兵隊の総予算の約2倍であるほか、約4000万人の米国民を対象とするフードスタンプ(食料費補助対策)のために昨年計上された予算額をやや上回る水準だった。

 ジャーナリストのクレイグ・ウィットロック氏は、著書「The Afghanistan Papers」のなかで、「アメリカの訓練担当者はアフガン新入兵に欧米のやり方を押し付けようとしたほか、アメリカ国民の支払う税金が本当の意味で存続能力のある軍隊に投資されているかについて十分な理解がなかった」と指摘している。

 同氏は、「アメリカの軍事戦略はアフガン政府軍のパフォーマンスを頼りにしていたが、米国防総省はアフガニスタンの人々が政権のために命を投げうって闘うことを望んでいるかどうかに驚くほど注意を払っていなかった」とも述べている。

By ROBERT BURNS AP National Security Writer
Translated by Conyac

Text by AP