“債務の罠”ではない?「中国の途上国融資=悪」に異論
◆漁夫の利? 西側諸国にも将来的に恩恵
ブルッキングス研究所のデビッド・ドラー氏も、「債務の罠」への恐怖はおおげさだと述べる。中国から融資を受けている国々は西側諸国や多国間開発銀行、民間からも融資を受けており、借り入れ先は多様化しているため、中国だけの世話になっているわけではないとしている。
同氏はまた、中国の融資で作られたインフラも、関税、投資規制、通関遅延、官僚主義、汚職といった途上国の政策面の改善を促せば、西側諸国も将来的に貿易面で大きな恩恵を得られるとしている。近年は世界銀行などがインフラ整備に融資することは少なくなっており、中国がその穴を埋めてくれることは悪いことではないと見ている。
クオーツは、中国の融資が問題にされる理由は、その不透明さにあるとする。財務状況や融資の詳細など、情報の空白が大きく、借り手も貸し手も互いの取引関係を正直に言わないとしている。しばしば中国側の透明性だけが問題にされるが、借り手側も詳細を明らかにすべきだとしている。投資銀行、ルネッサンス・キャピタルのイボンヌ・ムハンゴ氏は、条件の緩い中国融資に魅かれたアフリカ諸国にも問題があるとしており、借入額により慎重になるべきだと苦言を呈している(FT)。
◆債務猶予めぐりG7、中国に反発 中国は国内事情も
さて、コロナ禍で負債の負担がプレッシャーとなっている途上国を救済しようと、G20は債務返済の凍結を決め、10月にはその延長に合意している。中国政府もこの取り組みに参加しているが、その動きは鈍いとFTは述べる。実は中国からの融資は、中国輸出入銀行など政府出資の銀行によるものも含まれているが、それらを中国政府は民間融資と位置づけている。合意への参加は銀行次第だという考え方だ。
これに対し、G7財務相は共同声明で、国有、政府のコントロール下にある大型金融機関を民間金融機関に分類する国があることは非常に遺憾だと述べ、途上国を助けようとする取り組みの重要性や恩恵を減じるものだと批判している(ブルームバーグ)。
もっとも中国人民大学のLiu Ying氏は、アフリカの債務を軽減するたびに、中国国内から食べるものも十分にないという市民の大反発とプレッシャーが沸き起こるとFTに説明している。中国の鈍い反応には国内事情も影響しているようで、政府自身も対応に苦慮しているのかもしれない。
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