中国の台頭 かつての日本との類似点と相違点
日本は20世紀に二度、欧米に戦いを挑んだ。最初は軍の主導により強大な帝国になろうと試み、二度目は工業大国を目指した。そしていま、中国が世界の舞台に立とうとしている。
第二次世界大戦での日本の降伏から75年、日本のバブル崩壊後30年が経ったいま、21世紀にアジアの大国である中国が台頭し、世界の現状に揺さぶりをかけている。
日本がそうであったように、欧米の強大国に立ち向かう中国は、その増大する経済力や軍事力が脅威とみなされている。一方で中国は、かつての日本とまた同様に、欧米諸国が中国の台頭を抑えようとしていると危惧し、国民と指導者の間で国家主義的な感情を煽っている。
だが、世界の様相は一変した。植民地は独立し、多くの国が核武装している。国際的な機関があり、経済的な依存関係はさらに深まっている。
中国の目標は日本と似ている。経済成長のための資源を確保しながら、近隣地域での影響力を行使する点は共通しているが、その方法が異なる。軍事的な侵攻により直接的な支配を強いるのではなく、経済的な誘因、文化面での働きかけ、軍事力の段階的な構築を通して、中国はその地位を高めようとしている。
ダートマス大学のアジア専門家、ジェニファー・リンド氏は、「国力を高めようとする中国の手段は、実に多様だ。他国なら二の足を踏むような手段でもある」と述べている。
ほかのアジア諸国は、中国の動きを日和見と恐怖の入り混じる感覚で眺めている。対中貿易と投資からの利益に期待しつつも、その規模と強さ、そして広がりをみせる領有権の主張には警戒を強めている。中国の人口は日本より10倍も多く国土も広いため、既存の超大国と対等に渡り合える潜在的な能力がある。
中国の一帯一路構想では、アジアだけでなくアフリカなどあらゆる開発途上国で港湾、鉄道といったインフラを構築している。中国が南シナ海で存在感を高めようとする動きは歓迎されていない。中国はこの海域で近隣の東南アジア諸国の漁船を締め出し、人工島を建設して領有権を主張している。
ラモン・ナバラトナム氏は、第二次世界大戦中に日本占領下のマレーシアで少年時代を過ごした。長くコメンテーターを務める同氏は、中国に反抗せず、協調すべきだとしている。
「中国を取り込める能力を持たなくてはならない。要は、ドラゴンと仲良くして、敵に回さないことだ」と述べている。
かつて、イギリスが太陽の沈まない国と言われていたころ、新興の日本は中国や東南アジア諸国を時には残忍な手段を使って侵略、占領することで、植民地を持つ欧州の仲間入りをはかろうとした。
75年前、日本は戦艦ミズーリ号の甲板で正式に降伏文書に調印した。アメリカが原子爆弾を広島と長崎に投下したことで、帝国を確立するという日本の野望は打ち砕かれ、核兵器時代の幕開けとなった。中国の指導者たちは9月3日、抗日戦争に参加した人々を讃える記念館で、簡素ながらも厳かな式典に臨んだ。
オックスフォード大学教授で、日本の中国侵攻に関する著作もあるラナ・ミッター氏は、当時と現在の比較には慎重になるよう呼びかけている。
「古典的な帝国主義の時代は終わった。これからの争いは民事、軍事を問わず経済と技術になるだろう。歴史を紐解くことは役に立ち、必要でもあるが、未来への指針にはならない」と述べている。
こうした紛争を予告するかのように、日本は第二次世界大戦後、再建を果たして世界第2位の経済大国となる過程で、フランスやアメリカなど貿易相手国と対峙してきた。日本製の自動車、鉄鋼、家電が欧米の失業を生み出していると糾弾された。
貿易摩擦が1980年代にピークに達し、中国は市場主義的な改革を試みた。40年が経ったいま、日本は富裕国ではあるが経済は停滞している。他方、中国は世界第2位の経済大国となり、アメリカとの貿易戦争に巻き込まれている。
中国は電気自動車から先端医療機器にいたる産業で世界のライバルになろうとしているが、またもや日本と同じく、技術を盗み取り、市場開放の公約を果たしていないと非難されている。
太平洋地域での米中摩擦について幅広く執筆しているフィリピンのアナリスト、リチャード・ハイダリアン氏によると、基本的なこととして、中国を支配する共産党の懸念は、一党制が欧米に受け入れられないことだという。
これにより、「中国が何をしても、欧米は常にこれを脅威とみなし、さらなる台頭を阻止しなくてはという感情が生まれる」と同氏は述べている。
アメリカの裏庭であるラテンアメリカをも対象とする一帯一路構想についても、欧米からすれば、中国の影響力を国外に高めようとする取り組みとみなされている。南シナ海については、アメリカ海軍の空母が中国軍を押し戻したところ、今度は中国が、韓国からグアムにいたるアメリカ軍基地に包囲されているように感じている。
元アメリカの外交官、ミンタロウ・オバ氏は、軍事的、経済的な意味で「結局のところ、アジアでの戦争でアメリカが残した最も重要なレガシーは、永続する権力の足跡だ」と述べている。
21世紀という環境下で米中両国の違いがどのような展開をもたらすかは明らかではない。双方が核兵器で互いに脅威を与えられることは、少なくとも戦争に向かうあらゆる思考への部分的な歯止めとなる。
より危険なリスクは、中国が自国の領土である主張し、アメリカが武器を供給している台湾などの問題をめぐり、世界の二大軍事大国が偶発的に、局地的な紛争に巻き込まれることだ。
経済面についていえば、アメリカなどは企業に対し、中国への依存を下げるよう圧力をかけている。トランプ政権は、通信大手のファーウェイや人気の高いティックトックの動画アプリなど中国のテック企業に規制を課し、同盟国にも同様の措置を取るよう要求している。
しかし多くの人にとって、中国の効率的な製造拠点や巨大な消費者市場との関係を断つことは困難で、費用も高くつく。
中国はアップル、デルなどのブランド企業向けに世界中で使用されるスマートフォン、パソコンその他電子機器の多くを組み立てている。アメリカやヨーロッパの需要が伸び悩む状況下で、成長市場である中国は世界の自動車メーカーなどの産業にとって重要である。
ハイダリアン氏は、「太平洋地域であっても、日本がアメリカに匹敵するなどありえないことだった。中国が大きく異なるのは、日本が決して享受することのなかった広大な国の規模により、アメリカと渡り合えるようになっていることだ」と述べている。
そのため、軍事衝突であるかを問わず、中国は今後さらに手ごわい挑戦者になる可能性がある。
By KEN MORITSUGU Associated Press
Translated by Conyac