米中衝突に備えるオーストラリア 国防費拡大、インド太平洋に力点

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♦︎米中は衝突コース
 ガーディアン紙によると、オーストラリアは2001年以降、地域内の防衛費として40億豪ドルを割いている。これに対し、中東での軍事作戦にはその4倍近い150億豪ドルを投じてきた。この路線を離脱し、国内防衛の重視に舵を切った今回のオーストラリアの決断には、同国の危機感が強く滲む。

 豪政府が想定する最悪のシナリオは、米中戦争の勃発だ。ABCは「世界の二大国家である中国とアメリカは、衝突コース上にある」と述べ、戦争の危機が差し迫っているという認識を示した。同紙は、新興勢力と衰えつつある既存勢力が衝突する際には、戦争に発展するものだと論じる。過去500年でこのような衝突は16回起きており、うち12回が戦争に発展している。20世記に入ってからも、1914年に生じたドイツとイギリスのいさかいが、他国家を巻き込んだ第一次世界大戦へと発展した。ABCは米中のにらみ合いが続く現状について、「戦争はもはや、あり得ない事態ではない」と、強い懸念を示している。

♦︎豪周辺への飛び火を警戒
 万一、米中間の火花が世界規模の戦争を巻き起こせば、当然オーストラリアへの飛び火は免れない。ABCは「もし世界規模の戦争が今日起こったならば、私たち(オーストラリア)の地域から始まるであろう」と述べている。アジア太平洋には世界最大規模の軍隊や最新兵器などが揃っていることから、「世界で最も武装化された地域」であり、戦時にはアジアのほぼ全域が危険地帯と化すだろうと記事は予測している。

 中国によるインド太平洋地域への軍事進出も頭痛のタネだ。オーストラリア政府は、軍事予算の増強でこれに対応する構えを見せている。2020〜21年度に422億豪ドルを計上している豪国防予算は、2029〜30年度では737億豪ドルと、およそ1.7倍に急増する。増加分の大半を占めるのは、兵器の調達費用だ。ガーディアン紙によると中国側の報道官はオーストラリアの一連の動きに対して比較的穏やかに反応しているものの、国防費の拡大競争に陥るべきではない、ともけん制している。豪国内においても、平和運動を推進するオーストラリア緑の党がかえって緊張を高める結果になると反対するなど、国防費増強への異論は出ている模様だ。今回の路線変更による中長期的な影響が注目される。

Text by 青葉やまと