動き出す、ポストコロナ時代の覇権争い

U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Tiarra Fulgham / Wikimedia Commons

◆米国・日本をけん制する中国・ロシア
 日本や世界のメディアが新型コロナウイルスに吸収されるなか、中国は日常的に行っているように、東シナ海や西太平洋を舞台に米国と日本をけん制するような行動を取り続けている。

 中国人民解放軍の艦艇4隻が3月18日、宮古島の南東約80キロを東へ進み、24日には艦艇1隻が下対馬の南西約150キロを北東へ進んだ。また、今月10日には、人民解放軍の空母を含む6隻が長崎県男女諸島の南西約420キロを南東へ進んだことが確認された。

 こういった人民解放軍の行動は以前から日常的に見られ、決して驚くような話ではないが、トランプ政権は現在、新型コロナウイルスの猛威に対処せざるを得ず、安全保障上の問題に割ける時間が明らかに減っている。そして、新型コロナウイルスからの経済回復が大統領選における最大の争点になりつつあり、争点としての東アジア安全保障の重要性はさらに低下している。再選を狙うトランプ氏がその流れに従って選挙戦を進めることは想像に難くない。

 また、新型コロナウイルスの感染拡大は、中国を抑止するインド太平洋地域の米軍にも及んでいる。米軍の空母での感染が拡大し、現在、空母が事実上不在のなかで情勢が動いているのだ。

 そこで中国はまさに、政治的、軍事的にも機能が低下している米軍の隙を突く形で、日米をけん制する行動を取っている。日本の防衛省も警戒を強めている。

 ちなみに、ロシア軍も同様の行動を取っている。ロシア軍の艦艇18隻が3月26日、宗谷岬の北西約95キロを東へ進み、2隻が下対馬の南西約200キロを北進した。さらに今月3日には、艦艇2隻が対馬の北東約130キロを南西に進んだ。ロシアが北方領土の返還に応じない背景に、日米安保の適用範囲が北方領土にまで北上することがあるように、ロシアは常に米軍をけん制する意思がある。

◆日本の安全保障観
 以上のように、新型コロナウイルスは人への感染だけでなく、大国間の軍事覇権争いにも影響を及ぼしている。当然ながら、人々の懸念は国内でどれだけ感染が拡大しているかにあるが、日本は国家して新型コロナウイルスから生じる影響を中長期的、戦略的にもっと考えなければならない。現在そういった議論は皆無であり、国際政治の観点からの議論が必要だ。ポストコロナ時代の覇権争いは、新型コロナウイルスが終息してから動くのではない、いままさに始まっているのだ。

Text by 和田大樹