イラン司令官殺害で何が起きるのか? 考えられるリスク

スレイマニ司令官の追悼に集まった人々|Alireza Mohammadi / ISNA via AP

◆イラクでも高まる反米感情
 そして、今回の殺害を受け、イラクでも反米感情が高まっている。イラクの親イランのシーア派民兵による米国権益への攻撃は以前からあったが、1月4日と5日に続けてバグダッド中心部にある米国大使館がロケット弾で狙われるなど、これまでになく情勢は緊迫化している。イラク議会も5日、米軍など外国部隊のイラクからの撤退を求める決議を採択した。

 こういった事態を受け、米軍はイラクでの対イスラム国掃討作戦を停止し、イラン(とシーア派民兵)対策に集中すると発表した。

 現在、イラクは反政府デモ、米イラン対立の最前線、イスラム国残党と大きく3つの治安問題を抱えているが、スレイマニ司令官の殺害によってイスラム国対策が疎かになり、再びイスラム国が勢力を盛り返すことが懸念される。

◆中東全体へ広がるリスク
 もう少し視野を広げて考えた場合、今回の殺害によるリスクは中東全体に広がっている。イスラム過激派の動向を監視する米国のサイトインテリジェンス(SITE)によると、イエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなど各地に点在する親イラン組織は、すでに今回の殺害を強く非難し、米国やイスラエルへの報復を強く呼びかけている。

 その通りにならないことを望むが、リスクとしては、フーシ派による親米サウジアラビアへのミサイル攻撃、ヒズボラやハマスによるイスラエルへの攻撃などが考えうる。そうなると、「米国・イスラエル・サウジアラビアVSイランと各地に点在する親イラン組織」の構図が中東全体を覆う形で生じることになる。

◆世界各地へ広がるリスク
 さらに視野を広げてみると、5日にカナダのバンクーバーで開催されたイラン系ミュージックコンサートに参加していたイラン系米国人60人あまりが、帰宅するためカナダから米国へ戻ろうとした際、米当局に一時拘束されたという。もちろん、これとスレイマニ司令官の死が直接関係しているとは断言できないが、そういった反イラン感情、反シーア派感情(当然ながら反米感情、反トランプ感情も)というものが瞬時にグローバルに拡大してしまうことはある。今回の殺害によって、世界各地のイランコミュニティ、シーア派コミュニティとの間で暴力的な摩擦が生じることも否定はできない。

Text by 和田大樹