中長期的な視点で考える、トランプ氏の「日米同盟破棄」発言
◆伝統的な国際政治、現実主義からみる日米同盟
今回の発言は、「トランプ」が言ったのではなく、「米国大統領」が言ったという点を強く意識しなければならない。トランプ大統領が言うように、現在の日米同盟が片務的であることは否定できない。基地の提供や駐留費の大幅負担、米軍の前方展開への貢献などで片務性を否定する声も聞かれるが、トランプ大統領の不満のなかには、「軍事行動的な意味での片務性」があると考えられる。当然ながら、NATOやANZUS(太平洋安全保障条約)、米韓同盟などは相互防衛が基本であり、米国からすると日米同盟が異様に見えてもまったく不思議ではない。
そして、太平洋を舞台とする大国間のパワーバランスの変化を考える必要がある。太平洋分割統治論や第3列島線など中国の太平洋ビジョンが浮上するように、現在、そして未来において米中のパワーバランスは接近し続ける。そうなってくると、米国が日本へ「抑止できる役割」を期待する声は次第に強くなるだろう。
さらに、日本はインド太平洋構想など、グローバルなレベルでの役割強化を積極的に世界へアピールしている。しかし、それは米国に日本の軍事的役割を求める口実に使われる可能性がある。インド太平洋構想にはハワイなど米国領土も含まれ、米国の片務性に対する不満はいっそう高まることも否定できない。「日本はインド太平洋において主導的な役割を果たしていきますが、有事的な部分では関与できません」ということが今後も他国に通用するのか、大きな疑念が残る。
今後の極東アジアの安全保障を考えると、米国が日本を必要とする以上に、日本が米国を必要とするのではないか。安倍首相は今月上旬、テレビ番組のなかで、トランプ大統領に対し「アジア太平洋における米国の権益は日本の基地を使用することで保護でき、米国の空母を整備する能力はこの地域では日本にしかない」と説明した際、トランプ大統領から「安倍首相は説明の天才」と言われたと明かしたが、日本が米国をどうアジア太平洋に関与させ続けられるのか、この点がきわめて重要だろう。
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