「完全奪還」でイスラム国の脅威は消えたのか? 地図では見えない脅威の本質

Evan Vucci / AP Photo

◆サイバー空間で生き残るIS
 そして、シリア・イラクで崩壊が宣言されたISだが、その移動先として機能しているのがサイバー空間だ。ISはツイッターやフェイスブック、インスタグラムやテレグラムなど最新の通信技術を駆使し、自らの動画や画像を繰り返しネット上にアップし、また攻撃を呼び掛ける声明を出し続けている。

 それによって、ISの暴力的過激主義の影響を受ける個人が各地に台頭し、とくに欧米ではローンウルフテロという形で治安上の脅威となった。近年、幸いにもこのIS系のローンウルフテロも欧米では減少傾向にあるが、仮に、IS中枢が勢力を盛り返せば、再び欧米諸国でこの種のテロが繰り返されるかもしれない。

◆軍事手段では打倒できないテロ組織
 このようにISの全体像をみてくると、今日のISはアルカイダのように物理的な軍事力のみで対処できる存在ではない。人類は、国家対国家の軍事的な衝突を繰り返してきたが、国家は明確な領土を持ち、軍事力の行使によって破滅的なダメージを被る。要は、国家とは見える脅威と言い換えられる。一方、ISのように、組織だけでなく、ブランド、ネットワークというような機能をあわせ持つ相手には、軍事オプションというものは機能しない。

 これは、なぜ9.11以降の米国による対テロ戦争が泥沼化したかを説明する理由にもなるが、今回のトランプ大統領の発言どおりに情勢は進まないだろう。国際社会がシリアやイラクなどへの十分な関与を怠れば、ISが勢力を盛り返すことも考えられる。

Text by 和田大樹