イギリス、東南アジアに軍事基地を検討 「再び世界的な影響力を」と国防相

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◆米国は大歓迎
 ウィリアムソン国防大臣は、昨年6月にシンガポールで開かれた「シャングリラ会合(IISSアジア安全保障会議)」で、「アジアの海に軍艦を派遣し、同盟国との団結を示す」と述べた。その際は、主に北朝鮮の脅威を念頭に置いた発言だったが、その1週間後の米朝首脳会談以降の緊張緩和を経て、今後のアジアの緊張の焦点は中国の海洋進出にあると言っていいだろう。基地建設の目的も、南シナ海に近い最前線でアメリカや日本と歩調を合わせることにあると見られる。

 ワシントン・エグザミナー誌の社説は、南シナ海に面するブルネイに基地を建設した場合を仮定して、日米英による「中国包囲網」を図解つきで解説している。ブルネイ、もしくはシンガポールに英海軍が基地を置けば、南シナ海南方・西方が手薄な米海軍を効果的に補完するものとなる。米軍に協力する立場での基地運営は既定路線だと見られ、「ワシントンに好意的に受け止められるのは間違いない」(CNN)、「アメリカは、イギリスの決定を喜ばなければならない」(ワシントン・エグザミナー)と米メディアも評価している。

 一方、中国の強い反発は免れないだろう。かつての英植民地だった東南アジア諸国の反発も予想される。とはいえ、それは英国自身にとっても、東南アジア諸国の首脳にとっても想定の範囲内であり、決定的な障害とはならないと、現地シンガポールの識者は見ているようだ(ボイス・オブ・アメリカ)。イギリスは日米と同盟関係にあるほか、1971年にオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアと5ヶ国防衛協定を結んでいる。また、ほかの周辺諸国とともに南シナ海の領有権を主張する台湾は、イギリスのアジア進出を歓迎している(テレグラフ紙)。台湾の蔡英文総統はこの件について見解を求めた記者団に対し、「我々は南シナ海で航行の自由作戦を行うすべての国をリスペクトする」と述べた。

◆経済的目論見や原潜の配備も?
 英国のアジア海軍基地建設には、経済的な目論見もあると見る識者も多い。イギリスは世界第6位の武器輸出国(2013-17年)だが、近年はEU域外への輸出の割合が増えており、ブレグジット後はそれが加速すると見られる。EU離脱の反動で一時的な経済後退期が訪れると予想されるなか、英国経済はアジア太平洋地域への武器輸出拡大に活路を見出したいところだろう。「アジアの基地は武器のショールームとなる。大口の武器取引は、ポスト・ブレグジットの英国経済の大きな原動力となる」と、CNNは報じている。

 ここでも、中国が最大のライバルとして立ちはだかる。中国も近年アジアへの武器輸出に力を入れており、先日も、国営新華社通信がパキスタン向けのミサイルフリゲート艦を建造中だと誇らしげに報じたばかりだ。オーストラリアとフリゲート艦の大型契約を結んだばかりで、さらに販路拡大を目論むイギリスとしては、看過できない動きだ。

 アジア基地に駐留する艦隊の編成も気になるところだ。ワシントン・エグザミナー誌は、英海軍が誇るアスチュート級原子力潜水艦を最低1隻は常駐させるべきだと主張する。ステルス性能とそれを打ち破る高性能レーダーやソナーの有無が勝負の分かれ目になる現代戦において、その両方を備えたアスチュート級が太平洋地域で活動する米海軍のバージニア級原子力潜水艦とタッグを組めば、「見えない戦力として敵の脅威となる」と同紙は言う。原潜を配備することにより防衛や牽制だけでなく、高い攻撃力を備えた基地とし、中国を追い込みたいという意見だ。水上艦中心の艦隊では、太平洋戦争で日本海軍に惨敗した英海軍のトラウマを繰り返しかねないというのだが……。

Text by 内村 浩介