「東のクリミア」と化す南シナ海 強まる中国の実効支配、米の封じ込め効果なし
◆南シナ海は「東のクリミア」
このような“場外乱闘”が散見される状態を背景に、米シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティのアジア研究員、ジェームズ・アメデオ氏は、米側は「緩やかな封じ込め作戦」を行っていると指摘する(ナショナル・インタレスト誌)。とはいえ、中国が着々と実効支配を固めている現状を見れば、それが全く効果を上げていないことは明らかだとしている。同氏は、アメリカがこのままの姿勢でいけば、「最終的に、独裁国家が南シナ海を支配することになるだろう」と懸念する。
これに代わるアメリカのオプションの一つは、軍事作戦を伴う「巻き返し」だ。ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、南シナ海問題の軍事的解決も視野に入れていると見られているが、アメデオ氏は、ボルトン氏に同調する勢力はホワイトハウスでは少数派だとしている。米識者には、既に中国の軍事的進出を許し、西側が有効な対策が取れていない現状を指して、南シナ海を「東のクリミア」と呼ぶ者もいる。
中国と南シナ海の領有権を争うベトナム、フィリピンといった東南アジア諸国も、中国の軍事的圧力と経済援助という餌を前に声を上げられなくなってきている。ベトナムは、昨年7月に中国の圧力で南シナ海での石油・天然ガスの掘削を中止。今年に入ってから再開を試みたが、やはり中国が軍事力の行使をちらつかせたため断念した。当初は南シナ海の領有権の主張に積極的だったフィリピンのドゥテルテ大統領も、経済的利益を優先して親中路線に転換。現在は南シナ海問題でもむしろ中国の主張を支持する姿勢を見せている。
◆国際法の遵守を求める道はあるが……
このまま中国の思惑通りに進むのか。米シンクタンク国際戦略研究所と英ケンブリッジ大学で南シナ海問題を研究するリン・クオック氏は、WSJにオピニオン記事を寄せ、事態は中国有利に進んでいるものの、米側にまだわずかに逆転のチャンスはあるとしている。
同氏が拠り所にするのは、2016年の常設仲裁裁判所(PCA)による国際判決だ。同法廷は、中国が南シナ海全域の領有の根拠にしている中華民国時代の「九段線」を元にした歴史的権利を「国際法上の根拠がなく、国際法に違反する」と却下。クオック氏は、この判決やその根拠となった「海洋法に関する国際連合条約」に基づけば、少なくとも中国が軍事拠点化しているサンゴ礁の一つであるミスチーフ礁はフィリピンに属し、他の島に関しても「良くてグレーゾーン」だとしている。
クオック氏は、アメリカと国際社会は、このPCA判決を遵守するよう中国に圧力をかけることが唯一の逆転の道だと言う。しかし、現実にはアメリカはPCA判決を積極的に利用してこなかった。中国寄りにシフトしたフィリピンなどが乗ってこないことと、この判決に従うと離島を起点としたアメリカ自身の領有権の主張が揺らぐからだと、同氏は解説する。中国もPCA判決に対抗して新たな独自の法解釈を発表するなど、南シナ海支配の「合法化」に余念がない。オプションが狭まる中、中国の海洋進出を抑えることが難しくなってきている。
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