「やはり核放棄の意思なし」北朝鮮の核施設改修 米識者は合意の効力を疑問視
北朝鮮が米朝首脳会談で非核化を約束したにもかかわらず、同国の寧辺核施設の整備・増築が進んでいることが、衛星画像で明らかになった。これを受け、米メディアではトランプ政権が誇示する会談の成功に疑念を抱く論調が目立っている。北朝鮮の核廃棄はまた口約束だけで終わるのだろうか?
◆現場への中止命令はなし
米シンクタンク、スティムソン・センター傘下の北朝鮮分析サイト「38ノース」が分析した衛星画像によれば、ここ数週間のうちに寧辺核施設のプルトニウム生産炉の冷却システムが改修された痕跡があり、冷却塔の近くや実験用軽水炉近くに新たな建物が建てられたことが分かった。
「38ノース」は、合意を受けて寧辺核施設の操業が停止されるどころか、「引き続きインフラ整備が急ピッチで進んでいる」と結論づけている。衛星画像が撮影されたのは、シンガポールで米朝首脳会談が行われた9日後の今月21日だ。トランプ米大統領は会談終了後、記者団に「実際もう間もなくだと思うが、(金正恩氏を乗せた)飛行機が(平壌に)着陸した直後から、彼はそのプロセスに取り掛かるだろう」と語るなど、北朝鮮の非核化の実現に自信満々だった。大統領は、21日の閣議でも、「北朝鮮の完全な非核化に向けた行動をただちに開始する」ことに米朝が合意したと話していた(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。
しかし、そんなトランプ大統領の発言とは裏腹に、「38ノース」は、実験用軽水炉の稼働に必要なインフラは「外から見た限りでは完成している」としている。これを受け、米アナリストの間では「北朝鮮の核開発は、平壌からの特別な命令がない限りこれまで通り続くだろう」という見方が広がっている(NBC)。つまり、寧辺の衛星画像により、金正恩氏から現場へ中止命令が出ていないことが証明されたと言えよう。
◆北朝鮮は非核化に「関与する」としか言っていない
北朝鮮には、そもそも核を放棄する意思などないと見る識者も多い。トランプ大統領と金正恩委員長が交わした合意文書には、トランプ氏が主張するように北朝鮮がただちに非核化に具体的に着手するとは記されていない。北朝鮮が「朝鮮半島の完全な非核化に向けた取り組みにコミット(関与)する」という曖昧な表現になっているのだ。
米ミドルブリー国際研究所の北朝鮮核問題の専門家、ジェフリー・ルイス氏は、「我々の取引は成立していない。北朝鮮側は一度も核兵器を放棄するとは申し出ていない。一度たりともだ」と、米朝合意の効力を強く疑問視。カーネギー国際平和基金の核政策専門家、ジェームズ・アクトン氏も「もし、北朝鮮が本気で一方的な武装解除をする気なら、彼らは当然寧辺での作業を中止しているはずだ」と述べている(NBC)。
一方、北朝鮮側は先月、寧辺とは別の核関連施設、豊渓里核実験場の坑道を爆破し、同実験場を完全に廃棄したとしている。しかし、スタンフォード大学国際安全保障・国際協力センターのアナリストで寧辺核施設に詳しいアリソン・プッチオーニ氏は「彼らが核実験場で1つか2つのトンネルを爆破したからといって、表向きは電力のために使っていると主張している核融合炉の操業を停止したわけではない」と、北朝鮮の核廃棄の姿勢に懐疑的だ(NBC)。
◆「約束」と「現実」のギャップ
ニューヨーク・ポスト紙は、首脳会談の後、トランプ大統領が突如として米韓合同軍事演習を中止した一方で、先週、核兵器の「大きな脅威」を理由に北朝鮮への経済制裁を1年間延長したというチグハグな対応を懐疑的に報じている。こうした米側の対応も、「約束」と「現実」の間に大きなギャップがあることを証明していると言わざるを得ないだろう。
「この言葉と現実の隔たりは、非常に危険だ」と、カーネギー国際平和基金のアクトン氏は警告する。「遅かれ早かれ、トランプ氏は顔に卵を投げつけられた気分になるだろう。昨夏と同じように再び北朝鮮に対して痛烈な非難を始めないかと、大変心配している」(NBC)
寧辺核施設を巡っては、北朝鮮は2007年に同施設を閉鎖することでオバマ政権と合意したもの、2年後には約束を反故したという“前科”がある。今回も同じことが繰り返されるという懸念が、衛星画像により早くも現実の形となってきている。