2017年世界の軍事費:インド、フランス抜き5位 「意外にも」ロシアは縮小

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◆台頭著しい中国
 特に軍事費の増加が目立つのは、やはり中国だ。2008年比で110%増という世界最大の増加率を記録。絶対値でも同期で最大の伸びとなった。ナショナル・インタレストは、「次に増加率が高かったのはトルコの46%だ。つまり、中国は、世界のどの国よりも2倍以上の割合で軍事費を増やしていることになる」と指摘する。中国の軍事費が世界に占める割合も、2008年の5.8%から13%に増加。一方、アメリカのシェアは同期で42%から35%に減っており、1位アメリカと2位中国の差がどんどん縮まっていることが分かる。

 ブルームバーグは、インドの台頭に注目する。インドは今回初めてフランスを抜いて5位となり、2008年比でも45%増と、中国・トルコに次ぐ増加率を示している。ただ、ライバルの中国が近年、軍事力を物量・質の両面で強化しているのに対し、インドの場合は最新装備の獲得に多くの予算を割く段階には至っていないようだ。インドの識者は、防衛支出の大半は約140万人の兵員と200万人以上の退役軍人の人件費に充てられており、装備の近代化に回す余裕はないと指摘する(ブルームバーグ)。

 中東では、サウジアラビアがロシアを抜いて3位になったのが目立つ。トルコを中東に含まず、統計のないUAEを考慮しなければ、トップ15に入っている中東諸国はサウジだけだが、地域別で見てGDPに占める軍事費の割合が最も高いのは中東だ(オマーン12%、サウジアラビア10%、クウェート5.8%、ヨルダン4.8%、イスラエル4.7%、レバノン4.5%、バーレーン4.1%)。軍事的に不安定な地域情勢を反映した数字だと言えよう。

◆意外なロシアの減少、日本は現状維持
 かつての東西冷戦の最前線で、今も軍事大国がひしめくヨーロッパだが、今回のデータでは、近年の軍縮傾向がより顕著となった。トップ15で2008年比でマイナスとなっているのは、イタリア(-17%)とイギリス(-15%)と、NATO加盟国でもある1位アメリカ(-14%)だけだ。順位を落としているのも、ロシア(3位→4位)、フランス(5位→6位)、イタリア(11位→12位)と欧州諸国が目立つ。

 ワシントン・ポスト紙(WP)は、特にロシアの縮小は意外だと報じている。同紙は、クリミア併合などで西側諸国が再びロシアへの警戒感を強めているにもかかわらず、その軍事費は実際には減っていると点を見出しに取って強調。「この事実はヨーロッパとNATOを安心させるだろう」というSIPRIのシニアリサーチャー、シーモン・ヴェゼマン氏のコメントを引用している。とはいえ、ロシアの経済的低迷が背景にあるだけで、軍事費の減少が即、プーチン政権の軍事的野心の縮小を意味するものではなく、引き続き警戒が必要だとも同氏は指摘する。

 こうした世界の傾向の中で、日本は前年と同レベルの454億ドルで順位も変わらず8位だった。2008年比の伸び率でも+4.4%と、TOP15の中では緩やかだ。総じて「現状維持」の傾向が続いている。対照的に、アジアの情勢は急速に変化している。軍事力の拡大を急ぐ中国とインドがあり、地域のバランサーになってきたアメリカは反対に縮小傾向にある。その中での現状維持がどのような状況を招くか、慎重に見極める必要があるだろう。

Text by 内村 浩介